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自分が好みと言われれば、誰でも相手は男性もしくは女性――自分の異性だと考えるだろう。
しかしアリスを好みと称し呼び寄せた“依頼主”というのは若い女性だった。
うっとりとこちらを見つめ、愛おしげにあらゆる角度から熱っぽく見つめる女性にアリスは少なからず恐怖を感じていた。
そういう同性愛に関しては否定はしないが。
「いくらでわたくしとヤって下さる?」
ゾクリと背筋が粟立った。
いくら積まれても断るつもりで口を開こうとすればドアが突然開き、シャーロックとジョンがずかずかと入ってきた。
若い女性は慌てて手のひらで覆って顔を隠すがシャーロックは見向きもせずに「失礼」とアリスの腕を掴んで引っ張った。
ジョンはおかしな表情を浮かべて後ろから着いてくる。
「おいシャーロック。あの女性、依頼人じゃないか?」
「見ればわかるだろう」
ジョンの声にシャーロックは歩きながらそう素っ気なく返した。
「大丈夫だった?何もされてない?」
ジョンの心配そうな表情に「世間話をしてただけよ」と慌てて返すがシャーロックが口を挟んでその嘘も決壊する。
「一体いくらでヤるつもりだったんだ?」
「ヤるだって!?」
アリスは頬を朱に染めながら「やりません!」と返した。
ついでにシャーロックの手も振り払っておく。
ジョンはバツが悪そうに視線を泳がせている。そのまま三人はタクシーに乗り込んだ。
「タバコはどうしてわかった?」
ジョンは車内でそう言った。
当然だが会話には全くついていけない。シャーロックがお得意の推理で何かを当てたのだろう。
アリスは黙って車窓に流れる景色を見ることにした。
「ところでそのワンピース可愛いね」
ジョンが自分に向けてそう言っているのが分かりアリスは曖昧に笑って「ありがとう」と言った。
「いや、あの状況が全く分からないんだけど、どこへ向かっているの?」
アリスは不安そうに景色を見て言った。
ジョンへ視線をやれば彼は首を傾げるので続けてシャーロックへ向ければ、口を開いてくれた。
「戦場に向かうんだ」
「戦場?私戦えないわ」
プッとジョンは吹き出した。
シャーロックは口元を微かに吊り上げ、愉快げに目を細めてアリスを見つめた。
「僕たちの捜査班へようこそ、アリス」
恭しくシャーロックはそう言い、ジョンは笑った。
彼の言っていることはわからないが、二人の捜査姿は初めて直に見る。
「ここでは僕がルール。僕の言葉のみに従え。分かったか」
「え、ええ」
戸惑いながらそう返せばフッと笑いアリスの頭に手を一度乗せて言った。
「いい子だ」
あたしは犬じゃないってば。
その言葉は言わなかった。