doubt


――カシャッ

何度も響く音にアリスは不快げに顔を歪めた。
腕を組み、刑事や警察関係者の質問に答える。
何度も繰り返される質問に嫌気が差し始めた。しかも血の匂いが染み付いた弟の部屋で。
普通、場所を移動させて聞くものではないのか。
そこまで考え、ふと一つの結論に達した。

(私を疑ってる?) 

もしかしたらその場にいた自分が容疑者とされているのかもしれない。
確かに自分を疑うのが妥当だろう。
それを考えると苛立ちと不満が増して胃がキリキリと痛む。

「グレイさん、参考人として署まで同行願いますか?」

ついにきた、とアリスはうんざりした。
レストレードと名乗っていた警部だろうか。警部を見上げ、渋々頷いた。
抵抗したところで何もならない。
自分でも弟が亡くなったのは信じられないというのに。
アリスは休息が欲しかった。
得意の紅茶を淹れ、ゆっくりと飲みたかった。帰ったら淹れようとぼんやりと思う。
落ち着くカモミールが良いだろうか?
それともミルクと相性が良い優しいアッサムティー?
ああ、でもその前に帰れるかどうかすら分からない。
米神の辺りを押さえながら警察関係者に誘導されるように歩き出す。
外へ出れば、たくさんの野次馬が群がっていた。
ガヤガヤとうるさい騒音を聞くととても頭が痛くなってくる。
警察関係者が人混みを掻き分け、一台のパトカーのドアを開けた。
それに乗り込む前にパタン、と閉まった。
何なんだ。乗せようとしてる癖に乗る前に閉めるだなんて。
唖然とし、ドアを開けた警察関係者に非難めいた視線を遣ろうとしたところで眉を寄せた。

「シャーロック。君を呼んだ憶えなどないが?」

レストレードは深々とため息をつきながら言った。
呼んだ憶えがない、ということは彼は警察関係者ではないということだ。
シャーロックと呼ばれた男は長身で暗い巻き毛の男だった。
隣りには背の低い男が控えている。
顔つき的には彼の方が親しみやすい気がする。

「彼女を連れて行く必要はない」

シャーロックという男はレストレードが言った言葉を無視して淡々と言った。

「その決定権はお前にはない」

確かアンダーソンと名乗った鑑識官が敵意剥き出しで言った。
視線からは軽蔑が読み取れる。

「ああ、アンダーソン。君が今回の事件の鑑識を担当しているだなんて」

シャーロックという男は芝居がかった調子で嘆いた。

「彼女には“アリバイ”がある」

背の低い男は慌ててそう言った。
嫌悪な空気を変えたいようなそんな慌てぶりだった。
少なくともシャーロックという男よりは平和主義に見える。
二人は何者だろうか。
アリスはぼんやりとそう思い、視線を二人へ向けた。

「アリバイだと?」

レストレードは敏感にその言葉を聞き取った。

「全く、警察はあれだけ彼女に質問しておきながら、調べていないのか」

呆れたような皮肉の含まれた言葉に警察関係者たちは不機嫌そうに顔を歪めた。
それが少なかったのはレストレードだけに見える。

「それで?そのアリバイというのは?」

怒りを抑えたのか、或いは慣れているのかレストレードは落ち着いた声で聞いた。
落ち着きは取り繕って見えるのは気のせいではないと思う。

「彼女は事件時刻に友人であるジラ・シャノンと電話をしている。
まずは彼女から詳しく話を聞いたらどうだ?ということで彼女はもらっていくよ」

シャーロックという男は早口でそう捲し立てるように言うとアリスの肩に手を添えてエスコートするように歩き出した。
連れて行かれるままにアリスは彼らと歩く。
慣れた様子で背の低い男(大して低くはないが仮の名前)も着いてくる。
後ろから批難のような怒号が聞こえてきたが追ってくる気配はない。
歩きながら振り返ってみたが諦めたらしくやはり追ってきていなかった。





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