experience


悪夢を見てから3週間経ったがあれ以来見ることはなくなった。
殺人もなくとても穏やかな3週間を過ごした。
ハドソン夫人が新しく開店したベーカリーのパンを持ってきてくれたり、趣味に没頭できたり。
今日は久しぶりに親友であるティナ・ライスとジラ・シャノンと喫茶店で会う約束をしている。
アリスはクリスタルのピアスをして、鏡を見て化粧や髪型を整え直した。
おかしな箇所がないか一通りチェックを終えてアリスは立ち上がった。
約束の時間まで余裕はある。
時計でそれを確認しアリスは冷蔵庫を開け、ヒュッと息を呑む。
一つの目玉が浮かびアリスを睨んでいた。隣には腎臓らしきものが詰め込まれている。

「やめてほしいよね」

ジョンの声にアリスは胸の辺りを押さえながら振り返った。
眉根を下げて笑いながら冷蔵庫から買っておいたペットボトルのミネラルウォーターを取り出す。

「もう慣れたわ…でもやっぱり心臓には悪いわね。今度から冷蔵庫を開けるときは覚悟を決めなきゃ」

おどけるようにそう言えばジョンは壁に寄りかかりながら肩を竦め、「本当だ」と笑った。

「今日、どこかに出かけるの?」

アリスのいつもよりお洒落な格好と髪型を見てジョンはそう聞いた。
ペットボトルの水をコップに注ぎ、それに口付けてからアリスは答えた。

「ええ…ちょっと友だちと」

「楽しんで」

ニッコリと微笑んでジョンは言った。
それに微笑み返し、ペットボトルを冷蔵庫に戻した。
やはりこちらを目玉が睨んでくる。それから視線を逸らし、冷蔵庫のドアを閉めた。

「ありがとう。ジョンは?」

「シャーロックとお留守番になりそうだ」

「ちょっと遅めに帰った方がいいかしら?二人の邪魔になる?」

悪戯っぽく口元を吊り上げればジョンは苦笑を浮かべて「君までそのネタでからかうか」と言った。
クスクス笑いながらアリスは「それじゃあ、行ってくる」と時計を確認して片手をひらひらと振る。

「気を付けて」

そう返すと、アリスはニッコリ笑って去っていった。
途中でシャーロックと会ったらしく話し声が聞こえた。
しばらくして階段を降りる音がし、シャーロックが冷蔵庫の方へとやって来た。

「彼女、綺麗だったな」

そう声を掛ければ怪訝にシャーロックは振り返り首を傾けた。

「誰が?」

「もちろん、アリスが、だよ」

これにはシャーロックは反応を返さず冷蔵庫の中をしばらく探り、やがて目玉を取り出して閉じた。

「ダメだ、失敗」

シャーロックは目玉の入った瓶をジョンに向かって投げてソファーの方へと歩いて行った。

「おい、これどうすればいいんだ?」

「やるよ」

シャーロックはそう言ってパソコンの閲覧を始めた。
深々とため息をつくジョンは掌に収められた瓶の中身に視線を落とす。


「どう処分すればいいんだ?可燃ゴミか?」




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