The 1st homicide


「ええ…素敵だと思うわ…」

アリス・グレイは携帯を肩と耳で挟み、忙しくキーボードに乗せた指を動かしていた。
フレイン教授に提出するはずの書類の期限が明日へと迫っている今、これを完成させなくてはならない。
だからジラのデート前の話なんて聞いている暇なんてないのだ。
それこそ服装のことから髪型、化粧まで話をされるとうんざりしてくる。
どれが良い?どの服がいい?なんて言われてもその場に私はいませんから…!
アリスは電話口から聞こえる声に苛立ちを感じ始めた。
もう既に怒りのゲージが溜り始めている。

『でもさー大胆にショートでもいいかしら?それともスカート?うーん迷うな』

「明日、風が強いからスカートはやめといた方がいいと思うわ」

早口でそう言い、アリスは考えるためにキーボードから手を離し、深いため息を吐いて髪を掻き上げた。
トントン、と指を机の上で弾き行き詰った文章の続きを考える。
…であるからして。その続きは何だろう。
電話口から控えめな声が聞こえてきた。

『アリス…あの…ごめんね?』

全く…、アリスは米神辺りを押さえた。
気が強いくせにこうして不機嫌っぽさを醸し出せば上手に甘えてくる。
しかも甘えてくるときは女性であるアリスまでも思うほどとても可愛い。
きっとその性格でジラは男を虜にしてきたのだと思う。
冷静に分析しながらアリスはそうじゃない、と頭を振った。
そしてパソコンの画面上の文字を睨むように見つめて口を開いた。

「…別に気にしてないわ。毎度のことだもの」

声を柔らかくすれば、微笑んでいるのが伝わったのか鼻を啜るような音が聞こえてきた。

『アリス!!本当、貴方って最高よ!大好き!』

「はいはい」

苦笑を浮かべて挟んでおいた携帯を取り、切るために話を切り出そうとしたとき――

ドォン!!

ビクリと体を固くさせる。
何だ、今の音は。聞いたことのあるような音にアリスは胸の辺りを押さえた。
落ち着くのよ、あたし。

『アリス?何、今の音』

ジラの不安そうな声が耳に届き、アリスはようやく椅子から立ち上がった。

「…分からない」

銃声のような音にアリスは震えながら人2人分くらいの狭さの廊下に出た。
慎重に一歩一歩踏み出しながら、大きくて鈍い恐ろしい音の聞こえてきた弟の部屋のドアノブへと手を伸ばす。
電話口からはジラの呼吸しか聞こえない。
このときばかりはいつもうるさいくらいお喋りなジラに何か喋ってほしかった。
呼吸を落ち着かせ、ドアノブに手をやる。
ドアを押し開ければ、鉄のような酸っぱい匂いと目を逸らしたくなるような光景が広がっていた。
荒くなりそうな呼吸を押さえ、アリスは『ソレ』から目を逸らし、押し殺した声でジラに告げた。

「ジラ…警察を呼んで」

息を呑むような音が聞こえる。
アリスは弟ショーンの部屋を出て廊下に座り込んだ。

『…きゅ、救急車は?』

アリスは静かに首を横に振った。
頭に残ったイメージを消すかのように。

「…もう死んでると思うわ」

吐き出した声は掠れて酷く震えていた。





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