panic!panic!(not kiss it's just a disinfection!!)
アリスは目を開けた。腰の重みが消えた。
爆弾は解除された――?
地面に転がった機械のタイムを見ると1秒で止まっていた。
ジョンは腰の力が抜けたようにその場に座り込んだ。
3人とも同時にため息を吐きだした。
そして顔を見合わせ、肩を揺らして笑いだす。
「あー…、僕――僕、警察が来たときのために外に出ておくよ」
ジョンは目を擦って、立ち上がるとそう言ってゆっくりとした足取りで室内を出て行った。
残されたシャーロックはテーブルに置かれた液晶画面を弄ったが電源がつかない。
その背中をぼーと見ているとシャーロックは突然、くるりと振り返って腰を曲げてアリスへ視線を落とした。
腕の傷の度合いを見、シャーロックはアリスの頬に手を添えて視線を動かし視線を口元に固定した。
殴られた衝撃で血で滲んだような痕があるのだろう。少しピリピリと染みる。
痛みにアリスは顔を僅かに歪めて「痛」と声を上げた。
「唇の端が切れてる」
「ああ…殴られたみたい…少し痛むけれど平気」
「ちょっと我慢してくれ」
「え?」
ズイッと顔を近づけ、シャーロックは再度口を開いて言った。
「我慢してくれ」
何か言う前にシャーロックは唇をアリスの唇の端の傷に押し当てた。
フリーズするアリスは何をされているのか理解するのにまで時間が数秒掛かった。
ピリッとする痛みと柔らかな感触に頭が真っ白になる。
一体、彼は何を――?
いやシャーロックはきちんとした論理的な理由がなければ意味のない行動はとらない。
これには何か意味がある。消毒的な意味とか。
それにキスくらいなんだ。挨拶でよくするではないか。
そうだ、そうだ。
ショートしそうな頭に次々と説明を加えていく。唇の端の傷がチロリ、と舐められた。
そしてようやくシャーロックが離れた。
たった数秒のことなのにとても長い時間に感じられた。
「シャーロック、アリス。もう大丈夫だ。警察が来てくれたよ」
室内へとジョンが入って来て嬉しそうな顔でそう言った。
シャーロックはいつものように「そうか」と素っ気なく答え、アリスに向かって手を差し出した。
「立て」
「あ…うん」
手を掴みアリスは立ち上がった。
彼はいつも通り冷静のようだ。
「ジョン、彼女少しショックを受けているようだ。付き添ってやれ」
「あ、え?シャーロック?おい――」
シャーロックはそのまま室内を後にした。
ジョンはいつも通りの彼に息をつきながら立ち尽くすアリスに近づいた。
「アリス?大丈夫か?」
心配そうに顔を覗き込むジョンに慌ててアリスは笑みを浮かべて答えた。
「え、ええ!大丈夫よ…」
やがてやって来た婦人警官に毛布で包まれ、パトカーに乗ってベーカー街へと帰っていった。