The 1st game


「シャーロック、ジョン…?」

シャーロックは息を一瞬、呑んだ様子を見せたがもう一度見たときにはいつも通り冷静で真剣な表情だった。
ジョンの方は驚きを隠せないようだ。

「メッセージは見ただろうね?Mr.ホームズ」

テリーは気取ったような口調で言った。

『ああ、見たよ』

ぶっきらぼうに彼はそう答えた。
シャーロックはテリーを見ずにアリスを見つめていた。
彼は失いたくないのだろう。“事件重要人”を。アリスはそっと彼から視線を逸らした。
視線を逸らされたシャーロックは僅かに眉を顰めた。

「警察には?」

『…言っていない』

「よろしい。もちろん、言ったらどうなるかわかるだろうね?」

『“アリスを殺す”。早くアイツの用意したゲームやらの内容を提示しろ』

「ゲームは至ってシンプル。こちらの場所を特定して僕たちを逮捕し、アリス・グレイを救出する。簡単だろ?」

*

アリスが消えたと気付いたのは夕刻過ぎだった。
二人はそのままベーカー街221Bへと帰り、封筒とSDカードの中のメッセージを見つけた。
SDカードの中のデータは一度閲覧するとデータが壊れる仕組みとなっていた。
内容はとても簡潔で短く書かれていた。

“アリス・グレイは預かった。警察には連絡はしない方が彼女のためだろう。とっても簡単なゲームをしよう、シャーロック・ホームズ。by J.M”

「…ジム・モリアーティ」

ジョンは動揺を示した。彼のゲームはこの身を持って恐ろしさを体験している。
シャーロックへ視線をやると彼は静かに文字を凝視していた。
やがてその文章は消え、“No data”と表示された。
そのようなことがあり、次の日になると新聞と一緒にノートパソコンが入れられていた。
とても怪しいノートパソコンは奴らからの贈り物であることは明白だ。
訝しみながら開くとやはり画面にアリスと男二人が映っていた。
そして現在に至る――。

「簡単だと?」

『まあそう焦らず。ゲームに制限時間は存在しない。アリスが死ぬまで続けられる』

そばかすの細身の男が言うとアリスの無表情の顔が初めてギクリと強張った。
傍にいる体格の良い男は怯えた表情が堪らないらしくニヤッと口元を吊り上げていた。
男を殴りたい衝動が沸き起こる。

『ヒントは…なしだ。30分おきにアリスの腕にナイフで傷をつけていく。またモニターはつけておこう。彼女がどれくらい傷つけられたかを知りたいだろうからね』

『…私が悲鳴を上げるのを期待してるわけ?生憎ね』

強気に言ったアリスに体格の良い男が激昂して頬を殴った。
隣りで見ているジョンの体に力が入るのが見えた。

『それと彼女を発見したとしてもそれだけでゲームは終わると思うな』

男二人はそう言うと室内から出て行ったようだった。
画面の中のアリスは視線を室内に巡らせては顔を顰めている。
そんな彼女にシャーロックは静かな口調で話し掛けた。






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