Motion


「お疲れ」

「あ、お疲れ、アベル」

「あの警察の奴ら…退かなくて困ってるんだけど」

アベルの苦い顔に苦笑を返して、アリスは監視をしている刑事二人に近づいた。

「閉館時間、過ぎましたのでお引き取りを願いますか」

途端、突き当てられた銃口にアリスの思考は凍り付いた。
アベルは違和感に気付き、こちらへ駆けてくる。
こっちに来たら危険だ。

「アベル…!来ないで!ダメよっ」

パァン

銃声にアリスは体を固くさせ振り返った。
パタン、とアベルが倒れるのが見えた。
悲鳴を上げそうになるアリスの口を一人の男が塞ぐ。

「どうかお静かに。あの人は眠っているだけです」

狙うにしてはとても丁寧な口調だった。
口を塞がれたまま、アリスは一人の男の鳩尾を蹴り上げた。
声を上げながら倒れ込む男に目をくれず今度はもう一人の男の腹部に拳を食い込ませる。
怯んでいる隙を突いてアリスは鞄を手に駆け出した。
激しい運動は控えるように医師から言われているが生命を脅かす危機なのだから仕方ない。
図書館を出ればこっちのものだ。
図書館は閉館時間だが大学内にはまだ大勢の人が行き来している。
呼吸を整えながら早足でフレイン教授の研究室へと向かった。
フレイン教授のドアノブに手を掛けると丁度開いた。

「シャーロック…図書館で」

「襲われたか」

アリスは息を弾ませこくりと頷いた。
もう彼が何でも知っていようが不思議に思わなかった。
きっと彼は気付いていた。あの二人組が刑事ではないことを。

「入れ」

彼の言った通り、中へと入った。フレイン教授の研究室はやはり心地いい。
整理され過ぎず、汚すぎず。
ローストコーヒーの香ばしい匂いが部屋に染み付いていた。

「気づいていたの?あの二人が刑事じゃないことを」

「いいや、あの二人は正真正銘の刑事だ」

「どういうこと?」

「そこに座れ」

有無を言わせないような口調にアリスは大人しく椅子に腰を下ろした。
タイミングを図ったかのように扉が開き、レストレードが勢い良く入ってきた。

「シャーロック、あの二人が自殺した」

レストレードが言う『あの二人』が刑事二人だということにアリスは数秒してから気付いた。
自殺?なぜ自殺したのか。
そしてあのままどこかへ連れて行かれたらと考えるだけでゾッとする。

「君の言った通り、二人の履歴書の出身地の欄には嘘のことが書いてあった。事実確認をしてそれが判明した」

苦い顔のレストレード警部にアリスは未だに何も掴めなかった。

「犯人グループの目的が彼女であることは明白。射撃の件は警察に彼女を守らせるためか」

「何だと?」

困惑顔の警部にアリスは首を横に振って全く分からないことを示した。
さっぱりわからない。できれば順を追って説明してほしいものだ。

「犯人グループの目的が分からない…殺そうとしているのに守ろうとしている…矛盾が多い…」

「とにかく彼女は警察が責任を持って――」

レストレードの言葉をシャーロックは「ダメだ」と遮った。

「なぜだ?彼女はこれからも狙われる」

「また今回のようなことが起きれば警察はどう責任を取る?信用がガタ落ちするぞ」

シャーロックの言葉に警部は何も言葉を返せないようで開きかけの口を閉ざした。
普段は警察の名声のことなど何も考えないくせに。
そうレストレードは言い返してやりたかったが彼に事件を解決してもらっている手前何も返せない。

「…しかしどうする?」

「僕に任せろ」






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