棄却アンドロイド


「彼女は…まさか…」

レオンは窓枠に触れ、どこか上の空だった。当たり前だ。
ユウキはレオンの背中から視線を顔ごと逸らし、ハンドガンのグリップを握り締めた。やがて姿勢を正し、「レオン」と声を掛ける。
振り返る彼の顔は複雑だった。ユウキは気にしないフリをし、口を開いた。

「行きましょう」

彼の返答を待たずにユウキは踵を返してドアを蹴り開けた。
銃を構えながら進む。後ろから一つ足音がした。気持ちを切り替えたようだ。
そうだ。私情を挟むことは許されない。訓練でそれは何度もやった。気分を掻き乱されることもあった。だが感情に流されてはいけない。
任務を成功させるために感情は殺さなければいけない。
階段を降りると突然、ドアが開き、村人が出てきた。咄嗟のことにユウキは銃を持ち上げることが出来ず、首を絞められた。
首元の圧迫感からすぐに解放された。レオンが助けてくれたのだ。首を押さえながらぶっきらぼうに「ありがとう」と返し、一発銃弾を撃ち込み、片づけた。
ダイニングルームらしき一室を通過し、外へ出た。

ブィィィィィン

不快なモーター音にユウキは顔を顰めた。突然、肩を掴まれ、後ろへ下げられた。
守るように自分の前に立つ背中を一瞥し、ユウキは苛立ちを隠さずに声に出した。

「自分の身くらい自分で守れます」

チラリ、とこちらを見遣るレオンは「どうかな」と冷静な声で返した。
数メートル前にチェーンソーを持った男がいた。回転音がうるさい。しかしあれを受けてしまえばたちまち絶命してしまうのはわかる。
不思議とそれに恐怖は感じなかった。死など怖くない。死んでしまえば楽だとさえ感じる。
ユウキは隣でショットガンに切り替える彼を見ながらハンドガンをしまい、肩にかけているライフルに変えた。
まだ至近距離に達していない。スコープを覗き込み、ユウキは引き金を絞った。顔面に直撃。怯んだ隙を狙ってレオンは回し蹴りを繰り出した。
ヒット。さらに怯むチェーンソーの男にレオンは顔面にショットガンの銃口を向けた。
しかし勘付いたチェーンソーの男は手に持っていたチェーンソーを振り回し始めた。距離を素早くとるレオン。
ユウキは一度、スコープを覗き込むのをやめ、距離をとった。チェーンソーの男はレオンを執拗に狙っている。

「ナメてる…」

ボソリ、と呟きスコープを再び覗き込んだ。もうあの頃の自分ではない。
周囲に気を配りながらレオンの邪魔になりそうな村人を手早く2体片づけるとチェーンソーの男の頭を狙って引き金を絞った。
命中。確かに命中したが先ほどのように怯む様子はない。チェーンソーの男はこちらを振り返った。標的を自分に変更するらしい。
軽く悪態をつき、ユウキはライフルを肩にかけ直してハンドガンを手に取った。

「ユウキ!」

あ。名前呼ばれた。こんな些細なことが嬉しくなってしまうなんて。
自身の心の浮つきを感じ取り、ユウキは苦笑を洩らした。いけない、任務に集中しなければ。
咄嗟にユウキはベルトに手を遣り、ピンを外してチェーンソーの男へと投げつけた。
閃光が走り、チェーンソーの男は目の辺りを庇うように手を遣り、怯んでいる。
その隙を逃さない。レオンから投げられたショットガンをしっかりとキャッチし、銃口を顔面へと向け、一気に引き金を引いた。
反動がズシンとやってきたがどうにか堪えた。だからショットガンは苦手なのだ。
その一撃でチェーンソーの男は地面に転がり、動かなくなった。肩の辺りを摩りながらレオンへとショットガンを返した。
心配するような視線が注がれるのを感じたが気づかないフリをする。訓練であったらサクラギに注意を受けていただろう。
無言で一本道を進むと重々しい扉があった。閂を外し、村の中心部へと再び戻ってきた。
村人たちは再び戻ってきていた。また相手をするのか。ユウキは溜息をついてライフルのスコープを覗き込んだ。









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