伏し目がちな少女を笑った


レオンから離れ、ユウキはインカムを操作してサクラギへと回線を繋いだ。ワンコールで彼は出てくれた。

『ユウキ、調査結果が出た』

ああ…。ユウキは目を閉じた。サクラギの声を聴くと落ち着く。
自分の中のどす黒い感情が浄化されるようだった。

「…報告を」

紙の擦れる音がし、彼が何かを捲っていることがわかる。

『もうユウキは気づいていると思うけどそこの村は古くから信仰されている宗教がある』

「今回の件にその宗教が絡んでいると?」

『うん、現段階で結論付けることは出来ないけど、そう考えても問題はないと思う。名前はロス・イルミナドス』

「ロス・イルミナドス?」

「ロス・イルミナドス?噛みそうな名前だな」

レオンの方からそう聞こえ、彼もその報告を受けているのだとわかった。
噛みそう、って。ユウキは笑いを噛み殺した。

『ユウキからは報告はないの?』

「ここの村長さんと会ったくらい」

『会ったって…悠長に…。怪我は?』

「壁に激突して痛い」

『よし、大丈夫だね。他は?』

「……」

『他は?』

「Uh…特に。Oh、そうでした。一つ気になることが。村長は殺そうと思えばミスターケネディを殺せた。でも殺さないで“同じ血が混じった”とかなんとかで解放したんです」

『同じ血が混じった?もしかして』

「うん、嫌な予感がして」

ユウキの予測は当たって欲しくないが的を得ているだろう。サクラギも同じ意見のようだった。
彼はもしかしたら村人たちと同じようになるかもしれない。ユウキの頭の中でレオンの首筋に埋まった注射針が浮かぶ。
不安感が増す。そんな彼女の心情を察したのかサクラギがふっと柔らかく笑う気配がした。

『考えてもしょうがない。お前が今するべきことはなに?』

「アシュリーを保護して無事に家まで送ること」

『わかってるじゃん。しっかりこなして生きて帰ってこい』

ユウキは通信を終えたレオンの方を向きながら「了解」と返した。
彼から注がれる視線に気づき、顔を上げた。彼の双眸の奥に燃える何かを見つけて違和感にユウキは詰まる。

「行こう」

「はい」

いつも通りそう返し、歩き出して彼の違和感に眉を顰める。
首を傾げて彼を見上げるとレオンはそれに気づいて視線を返した。

「どうしました?」

気づけばそう問うていた。

「いや…何でも」

「あの」

思わず立ち止まれば彼も一緒に立ち止まってくれた。
レオンは戸惑うように見下ろしてきた。

「なんだ」

勇気を出してユウキは行動に出た。
念のため、「失礼します」と一声かけ、レオンに近づいた。驚いたような視線が注がれるのを感じたが腕と脚を伸ばしてレオンの額に触れた。
ほんの少しの熱。発熱はしていないようだ。

「熱は…ないですね。ひょっとして今ので気分が優れませんか」

先ほど首を締め上げられたことを思い出し、ユウキはレオンの顔から手を離そうとすると掴まれた。
突然のことに動揺する。熱を持った大きな手が自分の手を掴んでいた。動けず拒否することも忘れてレオンを見上げた。
熱の籠った瞳に頭が混乱する。なぜ。なぜそんな目で自分を見つめるの。

「ユウキ…」

溜息のように吐き出された名前。その声で呼ばないで。
熱を持った何かが溢れ出しそうになる。ユウキは俯いてレオンから顔ごと逸らした。

「すまない…」

腕を解放され、ユウキは細く息を吐き出した。
彼に触れられた腕が熱を持っているような――そんな錯覚にユウキはギュッとキツく腕を握り締めた。

「行こう」

「はい」

レオンから声を掛けられ、ユウキはすぐに冷静さを取り戻してそう返した。
銃を構え直し、レオンの後に続いて部屋へ入ろうと足を踏み入れると突然、レオンが吹き飛んだ。
風を切って迫る感覚にユウキは反射的に両腕で頭を守った。踏ん張ろうと足に力を入れるがあまりの強さに耐えられず、背中に衝撃が走った。
その一瞬に酸素が急激に肺に入り込み、上手く呼吸が出来なくなる。床へと転がったレオンの胸部を踏みつける村長の姿が確認できた。
しかし手の中にあったはずのハンドガンは零れ落ち、2メートル先ほどに落ちてしまっていた。
手を伸ばすが衝撃の大きさのあまり体が言うことを聞かず、動けないでいた。

「……っ」

酸素を必死に取り込もうと喘ぎながらも吸う。
そのとき窓ガラスが割れ、銃声が聞こえた。背中に当たる小さな衝撃に村長は振り返った。
ユウキは窓ガラスの奥の女を見た。チャイナドレス、スラッとしたボディーライン、黒髪。
女と目が合い、その女が微笑んだ気がした。村長は大きな足音を立てて窓に向かって突進していく。
危ない。そう思った瞬間、窓ガラスがすべて割れ、村長と女の姿は消えていた。










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