だって僕らは手遅れだった
「準備はいいか」
前を見据えたままレオンはそう言った。こちらを全く見ない。
妙な苛立ちを覚えながら「ええ」と返した。先ほど改造してもらったハンドガンを握る。
ライフルで狙撃するレオンを接近でサポートする作戦だ。遠距離はレオン担当で近接はユウキが大方担当する。どちらかの数が多ければそちらを優先。
臨機応変に、柔軟に応戦しようとレオンが持ちかけてきた。その戦法に異論はない。効率的でより円滑に進める内容だ。
「行きます」
ユウキはそう言って木製のドアを蹴り開けた。
「近辺敵なし」
「ユウキ、頼んだ」
ライフルを構えるレオンを思わず見遣り、頭を振る。
違う。名前を呼ばれただけでなぜこんなにも反応してしまうのか。とにかく集中しなければ。
深呼吸一つし、ユウキはゆっくり近づいてくる村人の頭を狙って撃った。出来るだけ一発で仕留めたいがそうならないのが現実だ。
怯んだ隙を狙って村人の足元を掬い、転倒させた。脳髄を破壊するチャンスができた。
ユウキは額に銃口を押し付け、躊躇いなく引き金を引いた。血が飛び散る。生きていた証。
それを静かに見下ろし、ユウキは胸の奥に燻る殺意が鎮まる感覚に目を一度閉じた。瞼の裏に焼き付いて離れない地獄を再確認し、目を開けた。
目の前で村人が鎌を振り上げている。ユウキはそれをかわし、首の後ろに銃弾を撃ち込んだ。
悶える村人に強烈な蹴りを入れ、グラグラになった首に腕を回し、へし折った。何発か銃声が聞こえる。レオンの方も上手くやっているようだ。
「少し移動する」
「了解」
板で出来た道を降りて歩みを進める。
道を塞ぐ村人を谷底へと蹴落としながら進むとレオンはライフルからショットガンへと切り替えた。
前方を見遣り、成る程、とユウキはハンドガンを握り直した。
「俺から離れるな」
「言われなくても」
レオンは一瞬、こちらを振り返り、口元を緩ませた。
「ユウキ、ダイナマイトを持っているヤツは注意しろ」
「はい」
近づいてくる村人の膝を狙い撃つと片膝をついた。その隙にレオンはダイナマイトへ撃ち落とした。
周りの村人たちは爆発に巻き込まれて死滅する。火薬の匂いにはもう慣れた。
「いい連携だ」
「そうでなければ困ります」
橋を渡り、上り坂を駆け足で進む。
平坦な道に戻るとユウキはレオンの方へ鎌が飛んでくるのを捉えた。
回転を予想してユウキはそれを掴んだ。危うく刃を掴むところだった。それを握り直し、村人へと投げる。鎌は勢いよく回転し、村人の顔面に突き刺さった。
「無茶を」
レオンは苦々しく言った。
「結果オーライです」
素っ気なくそう返し、ユウキはグリップを握り直した。
「止まれ」
仕方なくその命令に従えば、レオンは引き金を引いた。
途端、目の前で爆発が起こり、一気に村人たちは吹き飛んだ。
効率がいい。ユウキは辺りの状況を再度、確認し、足を動かした。宝箱のようなものが置かれている。
レオンはそれを開けて中から重たい石のようなものを取り出した。表面には何かが刻まれている。もう半分がどこかにありそうだ。
「紋章……?」
「これで先へ進むらしいな」
「となるともう半分もどこかに?」
「ああ、間違いない。これは左側だな」
「面倒なシステム」
「破れないシステムじゃなくて幸運だと考えよう」
ポジティブ。ユウキは溜息を落とした。
「右部分を探そう。ここから飛び降りるぞ。いけるか」
「余裕です」
下を見下ろしながらユウキは答えた。
「念のため、俺が下から君を受け止める」
「その必要はありません」
「怪我されたら困る」
「…わかりました」
言い争っている時間はない。ユウキは早々と折れた。
それに万が一、足を挫いてしまったら使い物にならない。レオンの言葉に従うのが無難だろう。
レオンは頷き、飛び降りた。銃声が聞こえた。下の村人を排除した後、レオンは合図を送った。
ユウキは相手の負担にならないように屈んでから飛び降りた。訓練で行ったことのない飛び降り方、着地のやり方に思わず縋りついた。
レオンはしっかりと受け止めたが突然のことに体を硬くして固まっていた。動悸に息を漏らせば、背中を摩られる感覚がする。
「大丈夫か」
「平気ですから早く……足下ろして」
地に足がつくとユウキは素早くレオンから離れた。
彼の匂いは昔のままであることに動揺する。揺れる天井と呼吸音がフラッシュバックし、それを掻き消すようにユウキは息を吐き出した。
今度は比較的高くない。ユウキはレオンよりも先に飛び降りた。少し歩けば背後から降りてくる音が聞こえた。
彼からの視線を感じる。ユウキはそれを無視して一軒の小屋に入った。だが紋章らしきものは何もない。
「なかったか」
「ええ、別のところみたいです」
「行こう」
「はい」
ユウキはレオンの背中を見つめた。警察官の服を着た彼の背中と変わっていない。彼は彼の信じる道をしっかりと歩いている。
違う。きっと彼だって苦しんだはず。たくさん苦しんでそれを乗り越えてここにいるはずなんだ。
それが痛いほどわかるはずなのにユウキは自分の中にある激しい憎悪の炎を消せないでいた。