幾億年の傷を数えた


「ジャケットとられたんですね」

自身の装備を確認しながら素っ気ない声でユウキはレオンに向かってそう言った。
きちんと予備のマガジンも入っていることに安心する。銃弾の箱も幾つかあるが出来るだけ節約したい。

「ああ、俺のファンが奪ったらしい」

気に入ってたんだがな、とレオンは溜息をつく。
ユウキが準備を整え、レオンへ視線を投げれば、彼は頷いた。

「…準備はいいか?」

こくり、と頷けばレオンは「それじゃあお姫様を救出しに行くぞ」と返し、先に歩き始めた。
少し歩くと窓から人影が現れた。銃口を上げればレオンに制される。

「こっちだ」

怪しげな人物はそう言った。黒づくめのフードの男。口元は隠れていて少し不気味だ。
レオンと顔を見合わせる。大きなリュックを背負った男だった。
その男が話しかけてきた。油断はできないが敵意はないように感じた。

「行こう」

「はい」

小屋から出ると目の前には木の扉があった。
石の壁で覆われたその先には簡素な小屋が所々にあり、村人たちが武器を構えながら巡回していた。
そこを通らなければいけないようだ。あの数を相手に突破出来るだろうか。不安になりながらも先ほどのフードの男の元へと歩みを進める。

「いい武器があるんだ」

男はそう言うと笑い、コートを広げた。
確かに内部にはたくさんの武器が並べてある。

「色々揃ってるぜ!武器を買いな!」

「ライフルを」

お金を支払い、ライフルを受け取るレオンの視線がこちらへと向いた。

「何も買わないのか」

「お金…持ち合わせてなくて…」

今回の任務にお金は必要ないと思った。
必要最低限持ってきてはいたが既に食事の為に使ってしまっていた。
ユウキは握っているハンドガンへと視線を落とし、持ち上げた。

「これのみでいきます」

レオンは顎に手を添え、しばらく考えたかと思うとユウキの手からハンドガンを奪い取った。
戸惑うようにレオンを見上げれば彼はそのハンドガンをそのままフードの男へと差し出し、「改造はお願いできるか」と問うた。
男は目元を細め、「できるとも」とだけ答えた。レオンは頷くと懐から宝石と取り出し、売った。彼は一体それをどこで手に入れたのだろうか。
驚きながら彼の背中を見つめることしかできない。

「旦那、どう改造する?」

「そうだな…」

レオンはこちらを一瞥し、「彼女に合うように見繕ってくれないか」と注文した。
フードの男は近づいてきて突然、右手をとった。そしてハンドガンを握らせ、構えさせたかと思うと解放し、見たことのない速さで改造をした。
返ってきたハンドガンを握ればそれは重量が違った。握った感じ軽くなっている。

「威力を損なわないカタチで反動と質量を出来るだけ軽くした。扱いやすくなっただろう」

「ありがとう」

満足したことを伝えるために微笑んで返せば、不思議な武器商人は「お安い御用さ」とウィンクした。

「それとライフルをもう一丁頼む」

「待って。そこまでお世話になれない」

レオンは首を横に振った。商人からライフルを受け取るとユウキへと差し出す。
なかなか受け取らないユウキにレオンは口を開く。

「受け取ってくれ。ライフルはサポートする上で大いに役に立つ。勉強した君ならわかるはずだ」

真剣な目で見下ろされ、ユウキはライフルへと手を伸ばした。
ずっしりとした重み。強い責任感と義務感が湧き上がるのを感じた。
最初に再会したときよりも強い信頼を感じ取り、この場から逃げ出したい気分になる。でもそんなことしたらダメだ。
そんなことをすればそれこそ私情を挟んでいるのは自分の方になってしまう。そう、レオンは当たり前のことをしているだけ。
彼の優しさに感情をいちいち振り回されて甘んじる必要はない。これは仕事上のパートナーとして彼にとって必要なだけ。
ズキリ。鈍い胸の痛みを顔に出さないように引き締める。真剣な表情で頷き、ユウキは「ありがとうございます」と頭を軽く下げた。

「…少しの罪滅ぼしだ」

レオンが目を伏せてそう返したことに気づかないフリをして、ユウキは背を向けて渓谷への扉の前に立った。









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