もうちょっとだけ、きらっていてください


脆い錠前のついた家までやって来た。レオンとユウキは互いに顔を合わせた。

「ここか」

「ですね」

レオンはナイフを数回振り、その錠前を破壊した。呆気ない。
壊れて落ちた錠前を見下ろし、ユウキはクスクスと笑った。彼の視線が注がれるのを感じ口元を押さえて目を細める。

「ごめん、だってあまりにもそれ脆いから」

「ああ、そうだな。君でも破れたんじゃないか」

柔らかく微笑むレオンに向かってユウキは首を横に振った。

「できないできない。私ナイフの扱い方、すっごく下手くそだもん」

瞳を細めて笑えば、彼の顔が突然真剣になった。
じっと見つめられ、戸惑いながら視線を返せば、突然、彼の手が動いた。
大きな両手が両頬に優しく触れ、包んだ。

「やっぱり君は笑顔でいた方がいい」

彼が触れている。あの日々を思い出した。
寒くて寒くて仕方なかった夜。それを埋めるためにやってしまったことを。
反射的にユウキはその手を振り払い、距離をとった。泣き出しそうになるのを堪え、彼を睨んだ。
やめて。それを口の中で押し留めて、ユウキは顔を歪めたままドアを強い力で蹴った。大きな音を立ててドアが押し開けられる。

「……私の人生です」

くしゃり、と前髪を乱暴に握り、冷たい目で振り返る。

「介入しないで」

じくり。また胸の奥が痛む。
ユウキは苛々した気持ちを隠さず、剥き出しのまま銃を取り出して奥へと進んだ。彼は無言で後に続いてきた。
今は顔を見たくない。苦々しい思いでユウキは一部屋を通り過ぎ、そのまま廊下に出た。
その先にはドアのない新たな部屋があり、ワイヤー爆弾が仕掛けられていた。舌打ちを一つし、銃口を向けて狙いを定めた。

「こんな小細工……」

引き金を引けば、爆音が辺りに響いた。
舞う砂埃にすかさず、腕で目を覆って防御し、進んだ。もう一歩進むと肩を掴まれ、爆音がする。振り返ればレオンが銃を下ろすところだった。
また一つワイヤー爆弾が仕掛けてあったようだ。いけない。私情で冷静さを欠いていた。それが命取りとなるというのに。

「すみません……」

「いや、俺も悪かった」

気まずさを振り払うように部屋を見回した。部屋は先ほど通った以外に道はないように見えた。
いや、あった。上を見ればすぐわかる。レオンと目配せし、ユウキは空の棚の正面に立った。本棚で出入口を隠しているようだが気休め程度。
このようなことで足止めしているつもりだろうか。銃を構え、合図をするとレオンは棚を退かした。構えたまま視線を遣ったが敵はなし。
いないことを視線で示せばレオンは頷き、先に進んだ。背後に気を配りながら彼の後を追う。
広い部屋だった。そして奥へと視線を遣れば、タンスが揺れている。

「俺が開ける」

「…わかりました」

銃を構えながらタンスへと近づいた。レオンが指で合図を送る。ユウキは銃を構え直した。
3…、2…、1…。
鍵を開けるためにレオンの指が動いた。ガチャリ、という音と共に1人の縛られた男が転がり出てきた。ラテン系のウェーブ髪の男。
銃を向け続ければ、その男は身を捩った。普通の人間のようだった。レオンが動き、その男の口に貼られたガムテープを剥がした。

「ゆっくり剥がせよ」

「ゆっくり剥がすと余計に痛いですよ」

ユウキは銃口を男の頭に押し付けた。レオンが動き、彼の動きを封じるロープを解きにかかった。

「アンタら、奴らとは違うのか」

「アンタはどうなんだ?」

レオンはそう返した。

「一つ大事なことを聞かせてくれ」

腕の感触を確かめるように男は自身の手首を摩った。

「タバコあるか?」

「ガムなら」

レオンは短くそう答えた。
視線がこちらへ投げかけられるのを感じ、ユウキは首を横に振った。
瞬間、気配を感じ取り、ユウキとレオンは同時に顔を上げた。出入口に村人2人。そして…重々しい足音を響かせ、巨大な男がやって来た。

「ヤバイ!ここのボスだ」

「なに?」

確かにヤバそうな気配。髭を生やし、見上げるほどの大男に血の気が引いていく。
ユウキは立ち上がり、銃を構えた。
一瞬、馬鹿げた疑問が頭に浮かんだ。この男に銃弾は効くのだろうか。考えるよりも早くレオンが動いた。
距離を縮め、回し蹴りを繰り出すレオンだが呆気なくそれは受け止められ、投げ飛ばされた。
気を失ってしまったレオンを視界の隅で捉え、ユウキは銃を掲げた。体術では到底、敵わない。

「……!」

ユウキはすかさず引き金を引いた。
が、やはりかその男にハンドガンの弾はあまり効かないようだ。
レオンのショットガンなら…!そう思ったときにはもう遅かった。重々しい足音が聞こえ、衝撃が走り、気づいたときには視界が暗転していた。









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