新空間イン真空管世界


燃える炎を見てユウキは顔を顰めた。
後ろではレオンが自身のオペレーターと遣り取りしている。

「ハニガン、残念な報せだ。同行した警官の死体を発見した。何が起きたかわからんがまともじゃない」

村人たちが落としていった武器を拾い上げてみた。
どこにでも売っている普通の農具。これは人間を殺傷するために使用するものではない。
そして、大男の傍にあるチェーンソー。そこの刃にこびり付いた血を見て顔を歪める。レオンと協力して倒した大男は村人が巻き込まれるのに構わずこれを振り回した。
確かに異常だ。アメリカのホラー映画ならあり得るだろうが。
相手をした村人たちを思い返し、ゾッとする。躊躇いもなく、人間の情など片鱗も感じさせない――ただの殺意の塊。
確かにここは当たりだろう。アシュリー・グラハムはここに連れ去られたと見ていい。

「首謀者は……誰なんだろう」

だが村人たちにはこんなこと不可能だ。協力して、人間と同じように生活できるようだがそこまで賢いものには見えない。
何が村人たちを変えたのか。何が村人たちを支配しているのか。

「ああ。それからもう一人派遣されてきたエージェントとも合流した」

エージェントは他にもいる。それこそ優秀な者は他にもたくさんいるだろう。
何故、自分なのだろうか。あまりにも偶然すぎる。ユウキは背を向けたまま、顔を顰めた。

「……了解」

そんな声が聞こえ、振り返るとレオンと目が合った。

「北側のルートから行こう。村から抜けられるらしい」

「はい」

返事をして歩こうとしたが背後から足音が聞こえない。
何故動こうとしない。思わず振り返れば、彼はこちらを見つめていた。
視線から感じる何かにユウキは顔ごとレオンから逸らし、視線から逃れた。

「君は……」

「早く、行きましょう」

「…ああ、そうだな」

彼がそう答えたことにユウキはそっと安堵した。
しばらく歩くと小屋があった。何か使えるものがないだろうか。レオンも同じことを思ったらしい。
中へと入っていく彼を待つために外で少しの間、待つ。すぐにレオンは戻って来た。そして彼の手元にある紙を見て首を傾げた。
無言で渡してきたそれに視線を落とす。レオンの写真が数枚。

【村での警戒命令】
近々、合衆国のエージェントが、この村の調査に訪れるという情報が入った。
このエージェントが、例の者と接触しないよう注意せよ。
とりあえず、例の者は、農場を抜けた先の廃屋に監禁してあるが、準備が整いしだい、より警戒厳重な渓谷へ移送する。
その間、合衆国の人間を近寄らせてはならない。
また、合衆国政府がどのような経緯でこの村を捜査対象としたのかも、探る必要がある。
計画実行の迫った、このタイミングで、捜査が入るのは、単なる偶然とは考えにくい。
我々と合衆国以外の第3の組織が動いている可能性もある。
常に警戒を怠るな。
村長 ビトレス・メンデス

「貴方が入る前から情報が漏れていたようですね」

ファイルを返せばレオンは頷いた。

「ああ、しかもご丁寧に俺の写真まで」

「その写真きっとどの家にもあるでしょうね」

「スター気分だ」

「エージェントがなに迂闊に写真に撮られているんですか」

「ああ、まったくだ」

レオンは肩を竦めた。
口元を緩めて微かに笑みを浮かべ、ユウキは「早く行きましょう」と促した。

「ああ、俺に接触して欲しくないお姫様がこの先で縛られて待ってるみたいだからな」

「まあ、大変。白馬を用意しなきゃ」

木の大きな扉の前へとやって来た。それを押し開けて村の中心を後にした。








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