それぞれの想い
「会いに行かないの?」
晴れて自由になったのに、とサクラギは視線を下へ遣った。
窓ガラスから手を離し、スーツをしっかり着込んだユウキは無言で背を向けた。
女性には必要ないネクタイまでしていてその様はまるで何かを決意し、頑なに欲しいものを拒否しているようにも見えた。
「頑固だな」
その背中に向かってサクラギはそう言った。
「私にも彼にも必要ないから」
強がっちゃって。サクラギは心の中で呟いた。
でもそれが彼女だ。彼女はここ数年で大きく変わった。
だが本当に彼女が危ない方向へ行くようだったらサクラギとて本気で止めるつもりだ。それがサポーターであり、オペレーターであり、相棒である自分の仕事だ。
「そっか」
「うん」
彼女はそれだけ答えると部屋から出て行った。再度、下へと視線を遣る。
そこには男がいた。大統領にお目にかかるかもしれないこの場所に随分とラフな格好だ。
彼もここ数年で変わった。直接会ったりしたことはないが彼の情報も任務もサクラギには届いている。
エージェントとしての名声はしっかりと知っている。彼女もそれを知っている。
きっと彼もどこかで小耳に挟んでいるに違いない。ユウキのことを。まだまだ任務数は彼が遥かに上回るがいつか彼女も負けないくらいのエージェントになっているはずだ。
否、サクラギがそうしてみせる。彼女が強くなりたいと言った。サクラギはそれに応えるだけだ。
「……馬鹿だな、アンタも、ユウキも」
そして自分も。サクラギは背を向け、静かに部屋を後にした。