エーテル麻酔のプールに落ちた


ぼんやりと目の前の景色を眺めた。そして振り返って一軒の家を見上げる。
白いペンキで塗られた木造の広い一戸建て。義父の家を出て、ここへやって来た。つい先週の初めのことだ。
どこにでもある古めかしい家。しかしかえってそちらの方が落ち着く。
庭もついていて今はまだ雑草が伸び、荒れているが好きにしていいということで空いた時間を使ってガーデニングしようかと考えている。
アダムには悪いがあの家は落ち着かない。ハウスキーパーが何人もいて、シークレットサービスの人間も当たり前のように傍に控えている。
あの小さな暗い冷え切った地下の監獄のような場所と比べたらそれは贅沢なことだがユウキはあまりそういったことを好まない。
自分で出来ることは自分でやりたい。自分の身は自分で守りたい。偽りでもいい、少しの自由とひとりの時間がほしかった。
夏の朝は心地いい。草の匂いと湿った樹木の匂い、新鮮な空気をいっぱいに吸って、伸びをする。

「サクラギさんにお礼、言わなきゃ」

サクラギ。彼がいなければ自分はここにいないだろう。
彼が気を利かせて自然の中で暮らすことを勧め、そしてこの家を見つけてくれた。

*

フライパンに乗ったベーコンエッグをトーストに乗せ、ユウキはテーブルまで運んだ。
キッチンへと戻り、付けっ放しのテレビのニュースを眺め、お湯が沸いたのを確認し、コーヒーを淹れる。香ばしい匂いがリビングを満たした。
その前にミルクだ。コーヒーで満たしたカップをテーブルへと起き、冷蔵庫を探ってミルクを取り出した。
視界に入ったオレンジジュースが残り少ないことを確認し、グラス一杯分のミルクを一気に飲み干した。
ここの生活にも慣れてきた。ユウキは伸びをし、テーブルへとサラダを運んで席につく。女性キャスターと男性キャスターが談笑している。
それをチラッと一瞥し、ベーコンエッグを乗せたトーストを齧る。

「ん、美味し」

口元についたパン屑を拭いながらコーヒーを一口飲む。

ジリリリリ

そんな音にユウキは動きを止めた。来訪者?初めて聞いた来訪を報せる音に驚き思わず呼吸も止めてしまった。テレビのリモコンを静かに引き寄せて消音にする。
ここの住所はサクラギしか知らない。正確には政府に管理された場所であるから誰も来ない。
それにサクラギを含めた政府関係者は前もって連絡を寄越すはずだ。戸惑っていると再びベルが鳴った。

「はい」

仕方なくユウキは答え、玄関ドアへと向かう前に窓から恐る恐る覗いた。
男だった。髪は短い。これといった特徴はないが佇まいから軍人であることが何となくわかった。
とすると味方?いや、そう決めつけるのはよくない。油断はいけない。ユウキは窓から離れ、別の部屋へと向かった。
暗い部屋の指紋とパスワード認証つきの棚を探り、鈍く黒い光沢を帯びた重々しい武器を取り出した。弾倉を確認し、セーフティを外す。
ふう、と一つ息をつき、ユウキは銃を構えて鍵だけ開けてドアを小さく開けた。

「誰ですか」

「ユウキ?」

懐かしい声に心臓が止まりかけた。









×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -