目が眩むほどの紅を
低くお腹に響くような、そんな振動にユウキは顔を上げた。増援が来たようだ。
ヘリが5機ほど、遊園地周辺は封鎖され、パトカー数台(元々きていた)、軍用車両も数十台。
特殊部隊が控えている。銃声が幾つも聞こえ、次々と仕留められる、元は人間だった屍。胃から込み上げてくるものにユウキは苦笑いを微かに浮かべた。
胃の辺りに手を添え、吐き気に耐える。そうか、まだ自分は人間なんだ。これは捨てなければいけないものだ。
ふと視線を感じ、顔を上げる。空とヘリ。それ以外に何もない。確かに視線をどこからか敏感に感じ取れた。
(何だろう…)
しかしそこに緊張感もなければ、殺意もない。
敵意も何も感じられなかった。しばらく上空を見上げ、考える。
考えても答えは出ない。相手に敵意がなければそれでいい。どうでもいい。
『ユウキ、応答しろ』
インカムを押さえ、ユウキはゴンドラの中へと戻った。不安だったのか、寂しかったのかピアーズがすぐに抱き着いてくる。
抱き止めながらユウキは口を開いた。
「はい」
『マニュアル通り応答しろよ』
呆れの混じった声に「嫌だ」と返す。
『お前な…。…状況は?』
改めて回りを見渡した。
「増援が到着して、殲滅行動に入ってる。私はどうすればいい?」
『お前はその場で待機。俺がヘリで迎えに行く』
「直々に来てくれるんだ?」
『感謝しろよ』
*
帽子を深く被った男はスコープから一度、目を離した。
「君は……」
男は信じられなかった。再び覗き込む。観覧車のゴンドラの上には女が屈んでいた。
ゴンドラ内には少年が丸まって怯えているのがわかる。
照準を再び女に合わせた。髪を切って雰囲気は変わったが間違いなく自分が知る女だった。
「…ユウキ」
その名を呼べば、彼女は反応したかのようにこちらへ視線を向けた。
この距離ではお互い顔を見ることができない。望遠レンズで辛うじて見えるくらいだ。
ラクーンから脱出を果たし、共にしばらく生活していた。それが続くと男は思っていた。願っていた。
もうトラウマから逃れられない立場であったが彼女が傍にいたことで一時の安らぎを得ていた。一瞬だけ現実から引き離し、安らかな気持ちを与えてくれる女だった。
読めない表情でこちらを見つめると彼女は片方の耳を押さえ、口を動かした。そうしてゴンドラ内に入っていった。
「レオン」
仲間から名前を呼ばれ、意識を引き戻される。
「さっきからお前撃ってないだろ」
「すまない」
男は苦笑を浮かべつつスコープを覗き込んだ。
何を考えているんだろう。彼女が選んだ道なのに。彼女が赤で染まる姿を見て胸を掻き毟りたくなるように苦しいだなんて。
この役目を受けるのは自分ひとりで十分なのだと、そう思っていた。
「変わったな…ユウキ」
敵を見つけ、すぐさま引き金を絞った。