夢を食べるしあわせ
「遊園地か…」
ピアーズの呟かれた言葉にユウキは顔を上げた。
彼は切なそうにテレビ画面に食い入っていた。画面に映ったドラマのワンシーン。
優しそうな両親と手を繋ぐ小さな男の子。色とりどりの風船、アトラクションにはしゃぐ子どもたち、楽しそうに叫ばれる悲鳴、そして人々の幸せそうに満ち足りた笑顔。
どれもユウキが体験することがなかった情景だった。羨ましい無縁の世界。それをクリスとクレアは救ってくれた。
あれはまだ物心がついて間もない頃だっただろうか。
施設を抜け出して一人公園でブランコに乗ったユウキを心配して声を掛けてきた人がいた。それがクリスとクレアだ。
2人はまだ幼かった。自分よりは年上だったが子どもといえる年齢だった。
それからしばらくしてレッドフィールド家に引き取られ(2人も幼くして両親を亡くしていた)共同して生活するようになった。
「ユウキさん?」
心配そうに見上げてくるピアーズに気付き、ユウキはハッとした。
「ごめん。ぼぉーとしてた」
「もしかしてユウキさんも行ったこと、ないの?」
「え?」
「遊園地」
記憶を思い返してみる。ユウキは笑った。
「何度かはあるけど人並みには行ってないかも」
初めては確かクリスとクレアとだ。
軍隊へ入隊してしばらく会えなくなってしまうクリスと思い出を作る為に行った。
後は本当に5本の指に入る程度しか行っていない。ボーイフレンドと行ったか、大学の友人たちと行ったか。
ユウキは瞳を伏せた。大学の先輩や友人たちは殆どあの街で奴らの餌か、奴らの仲間になっただろう。
最も、彼らの体の一部は残っていないはずだ。あの日、全てが消えたのだから。
身体がどんどん冷えていく。キュッと自身の指を軽く握った。その影をサッと隠し、ユウキは柔らかく微笑んだ。
「良かったら今度、行ってみる?」
「え?ユウキさんと?」
「嫌だったらいいんだけど」
ピアーズは慌てたように首を横に振った。
「違います!夢みたいで…何だか、嬉しいんです」
素直に喜ぶ彼の頭を撫でた。
気恥かしそうに顔を逸らす彼にああ、と手を引っ込める。彼はもう12歳だ。
そんな子の頭を撫でるだなんてどうかしているだろう。
「ごめんね」
「いえ、いいんです。それより連れて行ってくださいね!」
声を弾ませ喜ぶ彼に向かってユウキは微笑んだ。