新空間イン真空管世界


スーツに着替え、急いで客間へと向かう。
ふかふかの絨毯の廊下。実感できない。あまり納得できない。自分がお嬢様みたいな扱いされていることが。
ハイヒールが絨毯に沈み、転んでしまいそうだ。
しかし来客とは誰だろう。客間の扉の前に立つ。時計に視線を落とし、訓練まで時間があることを確認するとドアノブに手を掛けた。
深呼吸し、ゆっくりと開け放つ。客間は広い長方形の部屋だ。ダイニングルームとほんの少し造りが似ている。
扉を空けて正面には大きな窓が続き、右方向を向くと長テーブルと並べられた椅子が続き、壁画と暖炉がある。
アダムがどれだけお金持ちなのかわかる。しばらく広さに圧倒されそうになったが振り払い暖炉へと向いている男の背中を見つけた。
外見観察。黒髪、スーツ。背はこの国の中では平均以下。つまりチビ…おっと、初対面でいきなり失礼なことを考えてしまった。
ユウキは急ぎ足でその男へと寄った。歩きながらある程度、距離が近づくと声を掛ける。

「すみません、遅くなってしまいましたっ…わわ」

男が振り向く前にズッと絨毯にヒールが沈み、脱げてしまいその拍子に前に体の重心が傾き、コケた。
床へと着地する前に男に抱きとめられ、体を硬直させる。長身でなくても意外にも彼の体には程よい筋肉がついている。クリスやバリー程ではないが。

「あー意外にもマヌケなんだな」

「はぁ!?」

思わず声を上げる。
何だ。この男!初対面の癖に生意気だ。失礼極まりない。
いや失礼なことを思った自分が言える立場でない。

「あれ…」

男に掴まりながらよく考える。
待って。少し待って。この男の声、どこかで聞いたことがあった。
まじまじと男を見上げる。自分よりも身長が高いから良しとしよう。いやそこはどうでもいい。
男は自分を見下ろした。アジア人っぽい顔立ち。でも何だか真面目そう。やはりそうだ。

「もしかして私の専用オペレーターさんね!」

「気づくの遅い」

「いちいちムカつく」

そう返し、お互いに笑った。
男から少し距離を取り、改めて向き直った。

「自己紹介からしよう。俺が君のオペレーターのタツヤ・サクラギ。はい、よろしく」

小気味よくそうスラスラ英語で喋り切った。
何だ、きちんと英語を話せるじゃないか。握手に応じ自己紹介しようと口を開くとサクラギは「いいよ、俺知ってる」と遮った。
何だか狡い。向こうは知っていてこっちは何一つ知らないのだから。
むくれるユウキに気づいたのかサクラギはクシャリと笑った。子どもっぽい少年のような笑顔。
そんな彼の笑顔を見て悪い人ではないと思い始める。

「これから知っていけばいいから。な?ユウキ」

「はーい」

「よし、じゃあ行くか」

「どこにですか?」

「え?飯」

サクラギがそう言った直後、ユウキのお腹は鳴った。







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