会えるって願ってる 逢えるって知ってる

「ユウキ…」

レオンは思わず彼女の名前を呟いた。カラン、氷が溶けてコップの底に落ちる。
その音に思わずレオンは視線を上げ、辺りを見回した。
店の入口から女がやって来る。腕時計に視線を落とすと指定した時間ぴったりだ。

「クレア」

ラクーンで脱出したあとの再会。しかし久しぶりの再会に喜んではいられなかった。
クレアはレオンの向かい側に座ると店員に紅茶を注文して真剣な顔で向き直った。
ここ最近の出来事。それはクレアから聞いていた。アンブレラに捕まり、島で閉じ込められたこと。
その島でラクーンのときと同じような感染者が溢れ、再び生きるために戦っていたこと。
クリスに会えたこと。クリスと一緒に帰国したこと。こちらのこともメールで言ってある。

「久しぶりね、レオン。元気?」

「ああ、俺は元気。君は」

「ええ、元気よ」

会話が途切れる。クレアはぎこちなく微笑み、注文した紅茶を持った店員がやって来ると会釈をした。
ユウキの話。彼女の話をするべきなのにレオンの口から“それ”は言えなかった。
言い淀んでいるとクレアは紅茶に視線を落とし、口を開いた。

「閉じ込められちゃうまでユウキは…元気にしてた?」

闇の中で泣きそうな顔で見上げられた。
何度も、何度も抱いた。彼女は嫌がらないで受け入れてくれた。心の不安を埋めるために何度も行為に及んだ。
卑劣かもしれない。自分は狡いと後ろ指を差されるかもしれない。他人から見たら奇妙な関係に映るかもしれない。
確実に歪んだ関係だった。それでもお互い前に進むことを決めた。
ただ言い訳になるかもしれないが口付けは一度も交わしたことがない。キスだけはしてはいけないと思った。

「……」

「レオン?」

「…ああ、元気だった。ただ気丈に振舞ってたな」

これは本当のことだ。
訓練から帰ってくると笑顔で出迎えてくれたり話を聞いてくれたり色々と気遣ってくれた。

「そう、やっぱり。でもレオン、ユウキの傍にいてくれてありがとうね」

クレアの綺麗な笑顔を見てレオンは胸の奥で罪悪感が燻るのを感じた。
曖昧に頷き、誤魔化すようにコーラを飲む。

「今はシェリーと同じように閉じ込められているのよね」

「ああ。ただシェリーのように面会は不可能なんだ」

「それに二度と会えないかもしれない…のよね」

暗い顔になるクレア。
回りは明るい話し声で溢れている。

「俺は。きっと君は会ってもいいと思う」

「それが…会えないのよ、私も兄さんも」

会えない?クレアもクリスもユウキに二度と。
なぜ彼らも会えないのか。
眉根を顰めるとクレアは落ち着くように紅茶を一口飲んだ。

「どういうことだ?」

「…知り合いには会えない。それが命令らしいの」

「命令、だって?」

「ええ。国のいちエージェントに育成するためにって」

レオンは思わず立ち上がった。
周りから感じる視線。クレアは驚いたようにレオンを見上げ、やがて嗜めるように「レオン」と静かに名前を呼んだ。
レオンは再び腰を下ろし、自分のグラスに触れた。

「すまない…。ユウキがエージェントになるという話…初耳で」

「何も言われてなかったの?」

クレアも衝撃が走ったようで信じられなそうに眉を寄せた。

「ああ…ユウキもアダムも。何も。」

しばらく2人は黙り込んだ。
各自の飲み物を飲んだり、軽い食事をオーダーしたり。

「レオン」

ぼんやりと顔を上げる。
まだ頭の中はごちゃごちゃで纏まっていない。
混乱で渦巻き、心が追いついていなかった。クレアはレオンではなく別の一点を見つめたまま口を開いた。

「私は絶対、諦めないわ」

「……」

「諦めなければきっと会える。そう思うの」

「諦めなければ…」

クレアは力強く頷いた。

「ええ、そうよ。ラクーンのときもそうだった。私たち最後まで諦めなかった。だからこうして生きて私たちはここにいる」

そうでしょ、レオン。
クレアの真っ直ぐな眼差しがこちらへと注がれる。
ああ、そうだ。レオンは微笑み返し頷いた。

「ああ、そうだな。きっと会える」

そう信じたかった。







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