水溶性の空
数日が経過した。楔は外されたものの、牢獄の中の生活は依然として変わらない。
変わったのは牢獄にトレーニングマシンが設置されたことと訓練をするために一日の殆どを訓練所で過ごすようになったこと。
そして夜と食事の時間は薄暗い牢獄で過ごす。孤独な生活だった。それでも耐え続けた。我慢をした。そうしていればレオンといずれは会える。
そう信じて訓練に打ち込み、牢獄の中で勉強をする。寂しさを紛らわせる為でもあった。
訓練中は専属オペレーターと通信を介して事務的なものだが会話ができる。それがまだこの生活で大きく心を支えていることだろう。
彼はまだ名前を教えてくれないがそのうち会えると勇気づけてくれた。
『お疲れ』
「…ありがとうございます」
汗でぐっしょり濡れた体をタオルで拭き取りながらユウキはそう答えた。水分補給も忘れずに行う。
『体調も…うん、バッチリだな。監獄生活はもう終わるね』
「本当ですか?」
『ああ、信じて。百パー出れる。数値に異常はないし大丈夫』
「良かったー…もう外の空気が恋しくて仕方ないです」
自然と笑顔が浮かんだ。
耳元で微かに笑うような気配がする。一体、オペレーターはどのような顔をしているのだろう。
真面目であることは何となく訓練で掴めてきていたが年齢も身長も体格もわからない。
予想だがきっと彼は年上だろう。
『まあ、訓練漬けの毎日は変わらないけどな』
「わかってます!早く会いたいなーレオンに」
『……』
「あの?」
黙り込むオペレーターにユウキは戸惑った。
『ん、じゃあ体力測定テストいくから配置について』
ユウキは元気よく返事をし、指示通り計測器に立った。
*
「俺は納得いきません」
アダムは瞳を伏せた。表情は暗い。
「すまない、レオン」
眉根を顰め、悪態をつく。
心の拠り所がいなくなってしまった。政府に彼女を取り上げられ、面会すら叶わない。
こんなことになるならアルバート・ウェスカーに襲われたことを黙っていれば良かった。そんなことさえ考えてしまう。
「私も尽力したのだが上はもうユウキと君を会わせないつもりのようだ」
一生、会えないのか。眩暈がした。
シェリーも同じだ。面会は可能だが自由がない。
自分は誰一人救えないのか。レオンは顔を歪め、額に手をやった。
支えることもどうすることもできない。今の自分の力はあまりにも非力だった。
上に権限を言えるくらいになるにはやはりエージェントとして力をつけ、自分の力を認めさせるしかない。
たとえ何年かかってもいい。一生会えないよりはマシだ。
ラクーンの生還者はたとえ、あの地獄から抜け出しても誰もがまた地獄と戦うことになる、向き合うことになる。
それを孤独で戦うのはキツいことだった。