サロメの涙を口にして

薄暗い灰色の部屋。明かりをつければ白い部屋なのだろうがなぜだか電気用品は取り付けられていないしあるのは頼りなく灯る小さなランプだった。
どこだかわからない場所。レオンの“職場”に連れて行かれたユウキはすぐにレオンから引き離された。
最後に聞こえたのはレオンの怒鳴る声だった。訳が分からず立ち尽くしていると目隠しをされ、そのまま強引に担架に乗せられた。
抵抗をしても無駄なことがわかり、ユウキは諦め力を抜いた。
担架からベッドに移され、目隠しを取られた時にはもう誰もいなかった。ベッドから起き上がりユウキはゆったりと息を吐いた。
パニックになっても仕方ない。チャリ、と不快な冷たい金属音が聞こえ、視線を落とす。
腕には手錠。手錠から連なる鎖。どれだけ政府は警戒しているのだろう。苦笑を洩らす。
心配しなくても自分は政府に反旗を翻すつもりなどないというのに。ああ。ユウキはそこまで考えかけて納得した。
レオンからの報告を受けた政府はユウキが感染してゾンビ化することを恐れているのだ。第二のラクーンを生み出さない為に。

「怠い…」

決して快適とはいえないシーツの上に横たわり、枕に頭を沈めて目を閉じる。
少し熱っぽいがtに感染しかけたときよりは酷くない。どのウィルスとも相性が悪いらしい。作用が極端に酷すぎる。
特にtとは相性が悪いみたいだ。エイダ・ウォンのワクチンのおかげで辛うじて人間のまま生きているが。
tと相性が悪いとGとも悪い。そう思ったが違うようでGは身体に馴染んでいるようだった。
t抗体のおかげだろうと勝手に解釈しているがもうこの際だから何でもいい。自分に生物学の知識など皆無だ。
人間のまま生きているのなら何でもいい。自由を奪われることに関しては不満だが。

「でもあの男が私に入れたのは何だろ…」

tとGより勝るウィルスが開発された?アンブレラが隠し持っていた生物兵器はその二種だけではない?

「すまないね」

頑丈な扉から聞こえてきた声にユウキは目を開けた。
鉄格子の外側に佇んでいるスーツの男はアダム・ベンフォード。自分を自由にしてくれた恩人だ。
彼の傍にはシークレットサービスと見られる護衛官が2名控えていた。

「いえ、こうするのはそれなりの理由があるのはわかっていますから」

上体を起こし、姿勢を正して向き合えばアダムは申し訳なさそうに笑った。

「私が必ず君を自由にする」

「お願いします。私にはやるべきことが…ありますから」

「君は本当に強い子だ」

「そうなるしか生きていけません」

あの、アダム。と続ける。
アダムは首を傾げて「どうかしたかな」と続きを促した。

「レオンには…会えないのですか?」

彼の顔が薄暗い中、陰るのが見えた。会えない。それが答えだ。

「そうですか…」

「すまない…色々手は尽くしたんだが“接触は避けた方がいい”それが上の下した命令でね」

「ありがとう、ございます」

「待っててくれ。きっとそこから出す」

靴音が去っていく。辺りに何も聞こえなくなるとユウキは堪えきれず肩を揺らして嗚咽を洩らした。
レオンに会えない。ただそれだけで心が軋み、押し潰されそうだ。溢れ出る感情が声になる。口許を手で抑えてそれが抑え込んだ。
どんなに彼が大切だったか、ユウキはそれを愚かにも今になって思い出した。








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