殺戮ロマンチスト


『ルート変更された』

オペレーターの声にユウキは小走りだった足を止めた。
煉瓦の建物が続く演習施設。辺り一帯同じ建物が並んでいた。頭には記憶した目標到達までのルートがある。
歩きながらユウキはインカムに向かって話しかけた。ついでに呼吸を整えておくのも忘れない。

「ツーブロック先を左折だった筈ですが」

『反政府組織がクーデターを起こしたとの情報が入った。異国人はすぐに迎撃される。迂回して目標地点へ急げ』

このような突発的なハプニングは起こりうるし起こらない任務があったとしたらそれはそれで幸運だ。
よく出来た訓練プログラムに舌を巻く。ユウキは了解と返し引き返した。
同じような建物が続いていてもやはり行き止まりのゾーンや反政府組織の支部が各地に展開している。
伏兵もいないとは限らない。頭の中で地形とここまでのルートの記憶を重ね合わせ、ユウキは駆け足でルート修正した安全な道を通った。
周りの気配にも耳を澄ませる。ここまで数々の訓練を突破してきた。
体力作りのメニュー中心だったが銃を与えられて的当てからサバイバルゲームに似たゲームをやらされ、銃だけでなく多くの武器を扱えるように仕込まれた。
それを完璧に使いこなせるようになると今度は人相手の練習。二輪車、四輪車、ヘリから飛行機、モーターバイク…数えたらキリがない程それを短期間でやらされた。

*

『惜しかったな』

流暢な日本語を使う男の低い声。自分はアメリカ人だ。
日本語ではなく英語で喋って欲しいものだがユウキは大学で第二ヵ国語として日本語を学んだ為何とか分かった。
音声のみの声とは恐ろしいものだ。幾ら政府特別のオペレーターでも通信を介しての会話のみしかしないとはあまりに大袈裟過ぎる気がする。過剰な警戒心だ。
と言っても無駄であることはわかっていた。彼は政府の命令を忠実に行動しているだけだ。非はない。

「あそこに反政府の隠れ家があるとは思いませんでした」

ロッカールームの監視カメラを見上げ、そう言って自嘲気味に笑った。
事前に告知された情報ソースは間違っていなかった。そしてユウキの記憶も間違っていなかった。
何がこの訓練のミスを引き起こしたか。それは“情報不足”だった為である。
任務上、必ず情報は与えられる。しかし情報が全て正しいとは限らない。時には拾いきれていない情報もある。
つまり、これはエージェントとしての迅速な回避力と決断力が求められるのだ。

『あそこさえ突破していればこの訓練エリアはクリアしていたのに。ま、しょうがない』

「私、それより貴方の名前と顔、年齢が気になるんですけど」

少しの間の沈黙。マズイこと言っただろうか。
返答を待ちながら汗を拭えば通信機を通して声が聞こえた。

『この訓練を突破したら会おう。もうすぐ会えるし嫌でも俺のこと知るよ』

「…今日もありがとうございました」

『ほい。勉強も忘れずに』

はい、と返しインカムを外してロッカーに入れた。
銃器もそこに入れ、ユウキは鞄を取り出した。よし、急いで帰ろう。
レオンが帰ってくる前に急いで帰らなければいけない。
ユウキは急ぎ足で地下鉄へ急いだ。
改札を潜り、電子掲示板を見てもうすぐ電車が来ることがわかると駆け足でホームへと向かう。
足に鉛が乗せられたかのように重たい。筋肉痛を超え、動かなくなりそうなくらいの圧迫感が足にあった。
もっと鍛えなければいけない。この程度で疲れただとか言ってられない。
階段を駆け下り、電車に滑り込んだ。背後ですぐにドアが閉まる。息をつき、ユウキは鞄を肩にかけ直して座席に腰を下ろした。
地下鉄は嫌でもあの事件のことを思い出させた。今ではそれも薄くなってきたがあの日から数週間は全てがダメだった。
この現実世界が自分に馴染んでいないような錯覚さえした。最寄りの駅に近づくとユウキは慌てて立ち上がり、扉が開くとすぐに外へと飛び出した。








×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -