とるべき路

ガタン、と列車が揺れ微睡んでいたユウキは目を開けた。
シェリーとクレアはお互い寄りかかって眠っていた。

「起きたか?」

至近距離で声が聞こえ、ユウキは思わず声を上げそうになったがレオンに口許を押さえられ喉の奥に引っ込んだ。
どうやらレオンの肩に凭れて眠ってしまったらしい。怪我してない方の肩であったことにひとまず安心だ。
溜息を零し、ユウキは自分の髪に指を通した。いつもなら通ってくれる髪も絡まってギシギシいっている。
それに顔を顰めながらユウキは「ありがとう」と言って座り直した。

「ねえ、聞いていいですか」

「…ああ、どうした?」

「エイダさんは…」

その名前を聞くとレオンは顔を素早く伏せた。
とても傷ついたような…そんな顔に胸が苦しくなる。

「悪い…」

「…ごめんなさい」

声が震え、ユウキは視線を揺らしてそっぽを向いた。自分は馬鹿でどうしようもなく子どもだった。
手が反対側の肩を掴み、引き寄せられる。がっしりと掴まれそのままレオンの胸に顔を押し付けるカタチになった。
驚いて顔を上げようとすると彼の顎が頭に乗せられる感触が伝わってくる。そのままじっと待っていると「クレアと」と口を開いた。

「クレアと今後の話しをした」

「……うん」

「クリスを追うのに反対だそうだ」

「でも私」

「俺も反対なんだ」

一体レオンにどんな権限があって――!
思わず怒りそうになったが両肩を掴まれ、スッと頭が冷えた。
瞳を覗かれ、押し黙り続きを聞く姿勢になる。

「よく聞いてくれ、ユウキ」

「お願い、私を行かせて」

「君は何もできない」

その一言にユウキは凍りついた。
そうだ、その通り。全くもってその通りだ。
レオンから視線を外し、呼吸を震わせる。“君は何もできない”それが現実だ。
レオンは一瞬顔を歪め、口を開いた。

「俺と一緒に暮らすんだ、もちろん強制はしない。そのまま一人で自分の家に帰るのもいいだろう。でもきっと国は許してくれない」

確かにそうだろう。ユウキは顔を歪めたまま自身の胸辺りに手をやった。
シェリーと同じG抗体がこの体内にはある。そのほかにもきっと違う抗体が。
エイダが刺してくれた注射を思い出し、顔を伏せた。
帰ったら何をされるかわからない。研究されるかもしれない。或いは永遠に閉じ込められて自由を奪われて――。

「クレアと一緒に行ったとしても途中で君のみが国に戻される可能性だって低くない」

「……」

「わかるな?君がとるべき道は何か」

ユウキは黙って頷いた。それが利口だろう。
レオンは頷き返し、「今度こそ失わない」と呟いた。
“今度こそ”?ユウキはそのままレオンに寄りかかり目を閉じた。

(私はエイダ・ウォンの代わりなんだね…)

to be continued…







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