守りたいもの

聞こえてくる2つの銃声。天井から聞こえてきた足音にシェリーはぶるぶると震えた。
小さな体を抱き寄せ、ユウキは身を屈めた。
2人はあんな化け物と戦っているのか。天井を見上げ、シェリーを抱き締め励ますように背中を優しく撫でる。
しがみついてくるシェリーの恐怖を和らげるのは自分の役目だ。大丈夫、きっと大丈夫。そう声を掛けながら背中を摩った。
自分には他に出来ることはないだろうか。

――カタン。

物音にシェリーはビクリと大きく身を震わせた。
この子を守るのは自分しかいない。ユウキはエイダから貰った銃を持ち上げた。

「誰」

シェリーを背に物音がした方へ進む。
そこには何もない。ただそこには長い銃が置いてあった。

「ライフル…?」

そのライフルには真っ赤なキスマークが付いていた。
それを拾い上げ、シェリーと顔を見合わせる。シェリーは不思議そうに自分を見上げた。
成る程。ライフルの送り主はきっと――。ユウキは笑ってライフルを肩に掛けた。
それでユウキが起こす次の行動がわかったのだろう。シェリーは「気を付けて」と控えめに言った。
寂しそうなその顔に堪らなくなり、ユウキは眉根を下げてシェリーの頭を撫で頬に口づけた。

「頑張ってくる」

「うん」

梯子に手をかけ、天井の蓋の取っ手に触れた。
音は遠いところで聞こえる。近くにはいないようだ。ユウキはシェリーに離れているように指示し蓋を小さく開けた。
案の定、化け物もレオンもクレアも離れたところにいる。
ライフルを構え、スコープを覗き込む。レンズを合わせ、ようやく化け物が見えた。
弱点のように剥き出しになった組織。その動きは素早く照準がなかなか合わなかった。
当然だがユウキは拳銃に関しては素人だ。それがいきなりライフルを構えるのだ。そう簡単に合わせられるわけがないだろう。
引き金を絞った後のブレや反動があるのは知っている。それで外れてしまうこともあるのだ。
しかし知識はあっても使いこなせなければ意味がない。レオンとクレアの一大事なのだ。
迷っている暇はない。化け物をスコープで追いながら必死に照準を合わせようとした。
偶然にもレオンたちが化け物を怯ませた。そのチャンスを狙ってユウキは引き金を一気に絞った。
パシュッと音と共に化け物に命中したのを確認した。よし。しかし化け物はこちらの存在に気づき、体を向けた。

「っ…ヤバい」

この中にはシェリーがいる。守らなければいけない。
ユウキはライフルを車内に落としてよじ登り蓋を閉めて電車から飛び降りた。自分でもこんな勇気あるとは思えない行動だった。
ものすごいスピードで迫り来る化け物。その殺気は凄まじかった。
電車から離れなければ。ユウキは脚力に自信はあった。精一杯足を動かして全速力でホーム内を駆け抜ける。
レオンとクレアが自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。それでも足は止めない。
唐突に何かに躓き、地に倒れてしまった。ああ、これ死ぬかも。弾む息を抑え、ユウキはキュッと目を閉じた。

「ユウキ!!」

ドオオン!!破壊音がすぐ傍で聞こえ、目を開けるとあの怪物が倒れるところだった。
ホッと息をつく間もなくガバッと抱き寄せられ、体を硬直させる。
汗とほんのり香るシトラスでそれがレオンだとわかり、あたふたと視線を泳がせ落ち着かなくなった。

「もう二度とあんなことしないでくれ…」

しかしそれもレオンの一声で静まり、ユウキは眉根を下げて謝ることしか出来なかった。
それでも自分はレオンたちの役に立ちたかったのだ。

「急ぎましょう」

「ああ…そうだな」

腕を引っ張られ、電車に乗り込んだ。良かった…、自分は生きている。
乗り込むとシェリーの曇っていた顔に笑みが浮かんだ。
すぐに発車させる。やっとだ。やっとこの街を出ることが出来るのだ。でもまだ終わってない。クリスを…クリスを探しに行かないといけない。

「終わったな」

レオンの呟きは大きく聞こえた。

「まだよ」

意志の強いクレアの声が遮った。クレアもまたクリスを探しに行くことを決めているのだ。
レオンは驚いてクレアを振り返った。

「兄さんを捜さなきゃ」

「クレア、私も――」

「――貴方はレオンと一緒にいて」

「何言ってるの?私だって」

反論の言葉を続けようと息を吸った途端グラリと地面が揺れた。

「今のは何だ!?」

何――!?今度は一体何?シェリーの目にも戸惑いの色がハッキリ浮かんでいた。
今度こそやっと帰れると思ったのにまた何かが邪魔しているらしい。ユウキはシェリーを抱き寄せ、レオンとクレアを見上げた。

「大丈夫よ、今調べてくるから。ユウキ、この街を出たらすぐ話しの続きをしましょう」

「うん、気を付けて」

クレアとレオンの背中を見送り、ユウキはしがみつくシェリーを抱いたまま目を閉じた。

*

「本当に俺でいいのか?」

レオンの問いにクレアは困ったように笑った。

「絶対にあの子は私と一緒に来ると思うの。でも今回の地獄を見て行かせちゃダメってわかったわ」

「…そうだな。俺も賛成だ」

クレアと今後の話は2人で相談して決めた。シェリーのワクチンを探している途中、クレアが話し出したのだ。
街を無事脱出した後の話しを。クレアの不安はユウキにあることを聞いた。
きっとあの子はクリスを一緒に探すはずだけど危険なことがあるかもしれない、そう思うと死なせてしまいそうで怖い、
安全な場所にあの子を過ごさせた方がいいのでは、と。
確かにレオンも同意見だった。このあとの関わりはあまりないと思うがそれでも何故かあの子のことが心配でならなかった。
だからレオンから提案を持ち出したのだ。「本人の了承を得て俺と一緒に暮らすっていうのはどうだ」と。

「この問題が片付いて街から出たらあの子をよろしくね」

「ああ、勿論だ」









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