prologue

ユウキは緩く巻いた髪を軽く直しながら息を吐きだした。
やはり今日は巻いてくるべきではなかった。
特に風が強くて曇った悪天候な日は。
どんよりと空を覆った灰色の雲を見上げ、再度息をつく。

「ユウキ!」

自分の名を呼ぶ声と共に体に衝撃が走った。
思わず体を固くすれば苦笑を漏らされる。

「驚き過ぎよ」

「驚きたくもなるよ」

「ユウキの髪っていいよね、“the cuticle”(ザ・キューティクル)って感じ」

「何それ」

くすくす笑えばニッコリと友人――ジェニファーに笑われる。

「好きな男、できた?」

またそれ?と言わんばかりにユウキは眉根を顰め、笑って首を横に振った。
面白い話題は持っていないことを示すように肩を竦めてみせる。

「そんなのいないよ」

「だってユウキを狙っているboy friendなんて幾らでもいるでしょう?」

「あたしを魔性の女みたいに言わないで」

クルクルと指に巻きつけながら不満そうにユウキは言い返した。
悪戯っぽく笑うジェニファーを呆れたように見つめ、プイッとそっぽを向く。
そんな子どもっぽいユウキをジェニファーは「可愛い」だなんて呟いて笑う。

「きゃあっ…!」

ジェニファーが声を上げて目を瞑った。
あまりの風の強さに黒髪がぶわっと舞い上がって顔を覆う。
その衝撃に思わず目をキツく閉じ、片手で生き物のようにうねる髪を押さえつけた。
枯葉が煉瓦の地面を擦る音が耳に届く。
そして不安そうにユウキは空を見上げた。つられるようにジェニファーも空を見上げる。

「早く帰ろ、ジェニファー。何か嫌だ」

「猟奇事件でここも最近、怖い噂出回ってるものね」

「早くラクーンから出たい…」

気遣うような視線を感じユウキは敢えて気づかないフリをした。
クリス。心の中で名前を唱える。
たった一人自分を支えてくれた兄のような存在の彼の無事を願う毎日。
それを振り払いユウキは不穏に唸る空を再び見上げたのだった。







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