地下研究施設セキュリティールーム
「気づいた?」
シェリーの起きる気配にクレアはそう呼びかけた。ベッドの傍にユウキは座っていた。
セキュリティールームの一室は他の部屋よりは安全が保障できる。
「大丈夫、ここは安全よ」
シェリーを安心させるようにクレアは微笑んだ。
その微笑みにユウキの胸に安心感が広がった。ドッと疲労がやってくる。
重たくなる瞼は辛うじてレオンが頭を撫でてくれたことにより閉ざされずに済んだ。
見上げればレオンはコクリと頷き微笑んでくれる。あ、頬が熱い…。
シェリーはクレアのジャケットを自分が着ていることに気づき、不思議そうにそれを見つめた。
「持ってて。貴方にあげるわ、お守りよ」
「ありがとう」
子どもなのに子どもではないようだった。恐怖に怯えていた様子は本当に少女らしい少女だったのに。
横顔がどことなく大人びて見えるのはどうしてだろう。
「ママとパパに会いたい?」
クレアはシェリーの頭を撫でながらそう聞いた。
「全然…2人は研究以外何も興味ないのよ」
ユウキに両親の記憶はない。幼い頃に死んだのか、そうでないのか。
生死や顔立ち、どんな性格さえも知らなかった。
それにクリスとクレアを始め、クリスの職場の人間に育てられたようなものだがら寂しいという気持ちは微塵もなかった。
レオンから視線が注がれるのを感じてユウキは顔を引き締めた。
「私も一人でいる方が好きなの」
シェリーが咳き込み、ユウキはその小さな背中を摩った。
「悪化してる。急ごう」
レオンが冷静に呟いた。
「ええ」
クレアは慌てて立ち上がった。そしてシェリーに言葉を掛ける。
「シェリー。元気になるお薬を探してくるわね」
急ごうとするクレアの腕を小さな手が引き止める。
「クレア!」
「必ず帰ってくる。だから――ここにいて」
シェリーはお腹の痛みに苦しみながらコクリと頷いた。
「私も傍にいるから一緒に待とう、シェリー」
優しく声をかけたが内心不安で仕方なかった。
苦しんでいるのは本人なのだから不安になっていても仕方ないとは思うものの自分が役に立っていないことが酷く歯痒く悔しかった。
何よりもGに胚を植え付けられている、という事実に動揺が隠せない。
クレアは屈んで「シェリーのことをお願い」と言った。
レオンとクレアは手遅れになる前にアンブレラの地下施設に潜りワクチンを取りに行くことが決まった。
しかし不安だ。アンブレラの研究施設もきっと感染者だらけ。ここまで来て2人とも助からなかったら――?
そんなのは絶対に嫌だった。俯いていると次にレオンが屈んだ。肩には痛々しい血の滲んだ包帯が巻かれている。
そんな危険な状態にあるというのに彼は人の為に行くのだからすごいと思う。
「ユウキ」
ユウキは自分を呼ぶその声に酷く心臓が落ち着かなくなった。
不安とは違う、別の何かがそうさせているみたいだ。ユウキの髪を掻き上げ、レオンは撫でた。
熱を測るように大きな掌がユウキの額に触れられる。
「少し熱いな…」
「私は大丈夫、レオン」
「君の分も一本貰ってくる」
「でも私、本当に何でもな」
「念には念を、だ」
言い聞かせるように覗き込まれ、鼓動が落ち着かなく跳ねる。
それに気づかれたくない想いでユウキはレオンの胸を押して頷いた。ほんの少し笑って「気を付けて、レオン。クレア」と呼びかける。
2人はしっかりと頷き、背を向けて室内を後にした。