雁字搦め

…わかっていた。
ユウキは声にならない声を上げて近くにあったロッカーに拳を振り上げ凹ませた。
ジンジンと傷む拳を下ろし、堪えきれず涙を零す。
曝け出したのは怒りではなく自分の身勝手さと弱さだ。堪らなく悔しい―!堪らなく泣きたい―!
じわりじわりと込み上げてくる嗚咽と悔しさと怒り。壁に手をつき、ユウキは嗚咽を洩らした。

「…っく…」

息を止めてユウキは涙を拭った。泣いていても仕方ない。
自分は生きてこの街から出てクリスを探し出すのだ。一歩踏み出しかけたその時近くにあった何かが壊れた。
床へ目を落とすと硝子の破片。自然に割れた――?硝子の破片をよく見ると何かが写ってる。
目を凝らすとそれは人間の体内組織とよく似ていて…。
ユウキは悪寒に襲われた。壁に張り付いたピンク色のどっしりとした――それは鋭い爪の腕を持ち上げる。
長い舌を動かし――ああ、観察している場合ではない――恐怖で竦んだ足を無理やり動かし鋭い爪の攻撃を避けた。

「ユウキ…?」

聞こえた怯えるように震えた女の子の声。
いけない――!こちらへ来てはシェリーが危険だ。

「シェリー!逃げてっ!」

脳が剥き出しになったソレはユウキではなくシェリーの方へ注意を向けていた。
このままではシェリーが食い殺されてしまう。
猛スピードでソイツは立ち尽くすシェリーに向かっていく。銃を構えて照準を合わせて発射している時間はない。
ユウキは一瞬の判断でシェリーに向かって駆けた。わざと血で濡れた床に足をつけ重心を傾けて体を滑らせる。

“ユウキ、スライディング上手くなったな”

笑顔を浮かべるクリスが頭に浮かんだ。それを振り払いユウキはシェリーの前に飛び出し自分より小さな体を抱きしめた。
ヒュッと風が頬、腕を掠める。痛んだが大した痛みではない。
すぐにユウキは剥き出しの脳に向かって銃口を突きつけ迷いなく引き金を引いた。
脳を貫く弾丸。続けて何発か撃ち込みソイツは動かなくなった。

「シェリー、怪我はっ?」

息を弾ませながらそう聞けばシェリーは泣きながらしがみついてきた。
大丈夫そうだ。良かったと息をついて抱き締め直し、シェリーの頭を撫でる。
ジクリ。

「っ…ふ…」

腕の痛みにユウキは息を洩らした。
思ったより傷は深かったようだ。シェリーを抱え上げユウキは徘徊するゾンビがいない部屋へ入った。
ここなら侵入してきてもすぐに気づける部屋だし何よりもゾンビの姿はない。
狭くも広くもないこの部屋でなら篭城できるだろう。

「大丈夫…きっとクレアとレオンがすぐにやっつけて来てくれるから」

「ユウキ…怖いよ」

「私が守る、傍にいるから」

屈んで背を合わせてコツンと額を合わせて優しく笑いかけた。








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