叱咤
シェリーは別の部屋で隠れて待っている。
苦しみ始めるアイアンズ署長に向けてユウキは銃口を向けた。
冷たい瞳だ。暗くて年齢相応でない凍りつくような双眸。レオンは銃を構え直しアイアンズ署長へ視線を再度向けた。
彼女はシェリーと一緒に隠れるべきなのにここで残ってレオンとクレアと戦うことを選択した。
レオンに強制する権利はない。それでもユウキにはシェリーと一緒に部屋で隠れて待っていてほしかった。
「殺してやる…」
怒りの滲んだ声。震えた声は怒りを象徴していた。
怒っている、彼女は真っ直ぐ怒っている。何よりレオンはそんな彼女を少し怖いと思ってしまった。
女は怖い。そんな類のものではない。彼女が出しているのは明確な殺意だ。
なぜ彼女がここまで怒るのかレオンにはわからなかった。
そんなことを考えているとアイアンズ署長の体から何かが出てきた。
眉を顰めると発達した左手が振りかざされた。
危ない――レオンは声を上げる前に反射的にユウキの体に腕を回し、地面を蹴った。
地面へ着地しクレアの安否を確認しようとするとまた繰り出される攻撃。
確認する暇も与えてくれないのか、怪物。レオンは短く笑い、ユウキを立たせ再度攻撃を避けた。
視界の端でクレアが攻撃するのが見えたから彼女はきっと無事だろう。
「ユウキ、聞いてくれ」
「何…?後にしてください」
こちらを見ずにユウキはぶっきらぼうに返した。
彼女は怪物を見据えたまま顔に付着した血を乱暴に拭う。
「何があったのか、知らない。だけど君にはシェリーを守って欲しいんだ」
「あたしは…レオンが何と言おうとコイツをぶち殺しますっ」
怪物の背中にある大きな目玉がこちらを睨む。
「ユウキ――」
「――レオンの言うことを聞きなさい!」
クレアが怒声を上げた。ビクリとユウキが肩を揺らす。
「今の貴方は冷静じゃない!そんな貴方に私は背中を任せられないわ!」
「……っ」ユウキは悔しげに怪物を睨むとシェリーを追って部屋を出て行った。
頼もしい女だ。怪物に銃弾を撃ち込むクレアを見ながらレオンはそう思う。
「いいのか?あんなに言って」
「ええ、いいのよ。じゃないとあの子を死なせてしまうわ…」
レオンは何も言わずに戦闘を続けた。
確かにあのまま戦っていればユウキは死ぬかもしれない。
冷静な判断ができない状態で殺りあっても命を無駄にするだけだ。