“憧れ=好き”ではないのよ…
胃がムカつく。
極度のストレスと緊張感のせいか血液の流れも悪く感じた。
見慣れない光景が広がっているのだ。
幾ら解剖などに慣れている生物学を学んでいる教授も学生もこの光景を見れば吐き気が込み上げてくるに違いない。
ユウキは目を覆いたくなるこの現状から目を逸らし、繋がれたクレアの手を握った。
宥めるように頭を撫でる感触にほんの少しだけ安堵する。
「大丈夫、絶対に私がユウキ…貴方を守るわ」
年齢は変わらないというのにこんなに頼もしいお姉さんはいるだろうか。
甘えてばかりの自分が嫌だった。
とはいえこの状況を打破するにはクレアと先頭を警戒するレオンが必要だ。
自分の力では限度があるし生き残れないだろう。
ギュッとハンドガンのグリップを握り締めた。すっかり手が汗でしっとりとしている。
「ねえ、クレア」
「なに?」
「その、あたし…大学の友だちを探してて」
「お友達?」
レオンが銃を構えながら一瞬振り返る。
「探しちゃ…ダメ、かな」
声が不安に震えて掠れる。
あー、これでは甘えているようではないか。
いや事実甘えているようなものだが。
クレアは「いいわよ」と快く頷いてくれる。
クレアならきっと無理な願いでも人命がかかっているともなればそう答えるだろう。
人の力を借りてしか守れない自分が悔しい。
「俺も協力するよ」
背を向けたまま片手を上げるレオンの背中が頼もしく感じる。
ジェニファーがいつか言った“年上への憧れ”の気持ちが今になってわかる気がする。
ユウキは慌てて俯いた。頬が熱い。
自分は何てことを考えているのだ、こんなときに。集中しなくては。
前を見据え直し、ユウキは再びグリップを握るだった。