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【キミの隣で】
* 兵長 × 地下街馴染み・恋人
ただ一人の女と添い遂げる。
少し前の俺ならば、到底望むことではなかった。
「何笑ってやがるんだか」
口元を緩め、隣で眠るコイツの頬にかかる髪を、そっと指先で払ってやれば、擽ったそうに身を捩る。さっきまで俺の腕の中で可愛く乱れていた証拠の紅が、チラリと覗く胸元に飾られていた。
「早く、目を覚ませ。伝えたいことがある」
降ろされた瞼に唇を落とし、その時がくるのを待つ。いつものよう寝ぼけ眼を擦りながら、フニャっとした笑みを浮かべて、俺の名を呼ぶのを。
エルヴィンの策略にまんまと引っ掛かり、俺はファーランとイザベル、そしてコイツとともに調査兵団に入団した。
初めて壁の外にでた遠征で、ファーランとイザベルと亡くし、地下街時代から仲間と認め合ってきた奴は、もう俺とコイツのただ二人きり。
大切な仲間だ。時に家族のような存在。
言うなれば妹だろうか。
あの二人も家族のようなものだったが、俺たちがきょうだいとするなら、コイツは長女。温かく見守ってくれる、良き姉であり妹だ。
そんな関係から一線を越えたのは、やはり二人が死んだあの日の夜。
部屋を訪れたコイツと、肩を並べて無言で座る。憂いた視線が絡み合えば、指も絡み合う。唇が重なり、初めてコイツの熱を感じた。足りないものを分かち合うように肌を合わせ、俺はあの日コイツが女であることを意識した。
あれから何度俺を受け止めてもらっただろうか。
どんな関係かと問われれば、はっきりしたものはない。だが、すでにコイツは俺にとって、掛け替えのない一部。ほんの少しでも欠けてしまえば、俺ではなくなる。
酒の勢いでこの話をエルヴィンにすれば、大層呆れた顔で俺をみていたことを思い出した。しかも盛大な溜め息のオマケつきときたものだ。
その意味をあれから、俺なりに考えた。
“男と話をしているのを見ると腹が立つ”
“男が食事に誘っていると聞いただけで、ソイツを殴りたくなる”
“どこぞの兵士が懸想していると知って、どんな奴かと確かめたくなる”
辿り着いた答えは、こうだ。
コイツを特別に想っているということ。
背中を預けられるのも、あまり眠らない俺が安心して眠れるのも、そばにいて当たり前と思うのも、全ては特別で愛おしいから。
だから俺は─────。
「ん・・・」
「よぉ、目が覚めたか?」
「う・・・ん、リヴァイ、」
ああ、なんて可愛いんだ。
安心しきったその顔に、俺の心臓が煩く騒ぎ始めた。それはコイツへの気持ちからか、それともこれから口にする言葉に緊張しているのか。
「どうしたの? なにかあった?」
「いや、何でもない。・・・いや、あるな。話、いいか?」
シーツに流れるサラサラしたコイツの髪を指で梳き、俺は何度も頭の中で思い描いた言葉を喉元まで押し上げた。一つ息をすれば口から飛び出す。しかし、最後の一呼吸がなかなかできない。
情けねぇな。
人類最強の兵士と言われる俺が、一人の女を目の前にしてこの様だ。
口を開いては閉じ、まるで魚が水面から顔出し、パクパクと口を動かしているような間抜け面だろう。そんな俺の様子に、コイツは頬にそっと手を添え、“なぁに?”と言うように小首を傾げてみせた。
不思議だ。
たったそれだけで呼吸が楽になる。
「俺と家族になってくれないか」
頬に触れる手に俺の手を重ね、随分と思い悩み、考えた台詞とはかけ離れた言葉を口にした。
シンプルでいい。おれがコイツとどうなりたいのかを伝えれば、それでいいんだ。
「家族? 私と?」
「そうだ。俺と結婚して家族になってくれ」
大きく息を飲んだコイツの目は、あっという間に潤み、“はい”という受諾の言葉とともに、一筋の雫が頬を伝う。
あの日に見た悲しい涙ではない。俺と一緒にこれかも歩むことを、嬉しいと流す涙。
こんな涙なら、悪くない。