僕等は恋と呼んだ。 | ナノ


三時十二分。
まずい、少し遅刻してしまった。
腕時計を確認しながら急ぎ足で都内のカフェに入る。彼はもう、来ているだろう。テーブル席を見回すとすぐに黒髪の彼を見つけることができた。

「ねぇあの人、超かっこよくない?」
「待ち合わせかな?声掛けちゃう?」

声高に騒ぐ女の子の会話が耳に入る。きっと彼のことを話しているのだろう。彼は外に出る度持て囃されるのでもう慣れっこだ。私が。
しかし、譲れないものもある。

「光、ごめんね。待った?」

彼女ですが、なにか?好奇の視線を寄せる外野をこの無言の彼女オーラで焼き払うのだ。どうだ、この大人げない姿が大学二年生である(ちなみに二十歳)

「待ちました。…遅い」

「ごめんね。あ、すみませんコーヒーお願いします」

「別に三十分前から待ってませんから合計四十二分も待ってませんから」

四十二分も待ったのか。きっと片手に持つあのコーヒーは冷めきっているのだろう。ツンデレ具合は昔から一切変わっていない。
しかし、高校を卒業して大学に入って、彼はまた一段と大人びたと思う。同じ大学に通う私達であるが学科が別々なので大学内では全く顔を合わせない。超かっこいい黒髪一年がいる!という噂はよく耳にしているが。なので授業がないときはこうやって二人で会っているのだ。

「結構、久し振りですね」
「そうだね。えっと五日ぶり、かな?」
「そんなもんですっけ?」
「この前会ったのが土曜だからそうだよ」
「一ヶ月ぐらい経ったもんかと…」
「それはいいすぎ」

早いもので、付き合って三年の月日が経とうとしている。緩やかに過ぎる時と共に、私達は順風満帆な交際を続けていた。

「光、」
「なんですか」
「今日は、光のお家に行きたいな」
「ええですけど、食べますよ?」
「え?うん」
「…………。」

光の発言に平然と答えると、小さな沈黙が流れた。いや、結構ドキッとしたんだけどね。これは年上の意地によるポーカーフェイスの勝利だ。

「…結構、ご無沙汰やないですか」
「え。あ、うん。そだね」
「せやから俺」

 多分、余裕あらへんと思う。

こんなことカフェでする内容では全くないのだが、赤面する光が可愛すぎるので許してくれ。会計も、当然のように私の分まで払うのが光。いつも払ってもらってばかりで申し訳がない。感謝の言葉を伝えると、あっちで返してくれればいい、と。…おい。


「ひ、かる、」
「駄目や。まだ、イカんで」

「で、も…っ」
「もっと、繋がってたいんや」

甘い台詞すら、私を快楽の淵に追いやっていることに気付いているのだろうか。
私達は互いに愛し合っている。それを確認するように、こうやって愛の行為を繰り返しては確かめるのだ。

「恋未さん、愛しています」

真っ直ぐに私に伝えるその瞳は、三年前を思い出させた。
光か、白石か。悩みに悩んで私が出した決断。私は確かに、白石に恋をしていた。遠い昔を偲んでは焦がれていた日々。「好き」と告白されて、ぐらぐらと揺れた心。けれど、目を瞑って。私の心の中にいたのは光だった。
過去に踏ん切りをつけて、あの日から私はあなただけを想っています。

今日も、明日もこの先も。


「私も、愛してるよ…ひかる」

ずっと、二人でいましょう。

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