十萬打 | ナノ





がらんがらん。


それは幸せな日常が崩れていく音だった。




「柚はほんまにおっちょこちょいやなぁ」

「え、そう…かな?人よりワンテンポ遅れてるとは言われるけど」

「危なっかしいもんな。まぁ俺が一緒おってやるから安心し」

「本当に?」

「せや、ずっとずっと一緒おったる」



好きと言われたわけじゃない。
付き合っていたわけじゃない。

けれど、白石くんはずっと隣にいてくれた。
温かい笑顔を向けてくれた。



「柚はめっちゃ可愛えと思うで。ほんまに」

「か、可愛くないよ…っ。そんな改まって言われると…、恥ずかしい、です」

「ほら、そういう所も可愛え」

「白石くんっ…、」



貴方が優しく接するから、心のどこかでわたしは特別なんじゃないかって期待しちゃって、勘違いしちゃって、こんなにも好きになっちゃったんだよ。


だから貴方に嫌われたとき


「柚のはっきりせんとこ、好かん」

「え………」



死ぬかと思った。




秋、儚く散りゆく枯れ葉。哀愁。わたしと落ち葉、どちらがちっぽけなのだろう。落ち葉を踏み潰せば当然の如く粉々に砕けた。

…あのときのわたしも、同じ。



「柚」

「……っ!」


後方から、声がした。

わたしの脳内器官が彼なのだと認知している。こんなにも、定着しているの。


「…来ないで」

「柚、聞いてほしい」

「嫌、嫌だよ…イヤ」


振り返ることは出来ない。貴方の顔を見てしまったら、涙が溢れそうで。


「柚っ!」


肩を掴まれて、わたしは歩む足を止めた。
俯いてふるふると、僅かに肩が震えていることに白石くんは気付いていた。
わたしが泣きそうなことにも、気付いていた。



「嫌だ…怖いよ。白石くんに嫌われることが怖い……。白石くんに…嫌われたくない…っ」

「ちゃう!聞いてくれ、あれはほんまに俺が悪かった」

「違うことない…。だってわたし、はっきりしない子だもの。だからみんなわたしに苛々して、白石くんも…」


白石くんも、離れちゃう。



「違うねん…柚は悪くあらへん。柚が隣のクラスの男に告られたって聞いて、あんまり相手が押すもんやから断りきらんで保留したって聞いて……、俺、」


告白されて、好きな人が別にいると伝えたかった。でもわたしの内気な性格上、言えなかった。


「歯痒くて堪らんかったんや。柚の一番近くにおるのは俺やって思っていたから…」


わたしのたった一人の好きな人は、


「俺は柚が好きや」

「白石…くん?」

「俺以上に柚を愛せる奴はおらん。絶対絶対、俺が幸せにしたい」


崩れた世界はもう一度、再構築される。
君と一つ一つ、積み重ねていきたい。





「わたしも、好き」


これからは一味違う、大人な関係で。

つらい嘘は愛だ

meiさまの白石リクエスト*
白石が嫉妬でついヒロインを突き放してしまい、一生懸命に安心させようとする……あれ?なんか違う?
遅くなってごめんなさい!


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