白兎を追いかけて | ナノ



まるで引っ張られるかのように足が動いて、ウチはいつの間にかグラウンドの端に立っていた。
そして一人、シュート練をしている姿がそこにはあった。


(薮内くん…!)


そうやんな、部長やもんな。人一倍頑張ってるんやな、すごいな。
汗を流してゴールを狙う姿はほんまに真剣で、集中力が高まっていることが伺える。


…邪魔したらあかんよな。

(うーっ、頑張れ薮内くん!)

ウチは心の中で必死に応援した。


ガンッ!

(……あ、)


ゴンッ!

(……わゎ)


薮内くんが放つシュートはことごとく外れていた。

どうしたんやろう?

(不調なんかな…?)

見てるこちら側までハラハラする。


何本も練習してたんやろと分かるほど、散らばった数々のボール。
ボロボロな、薮内くんの姿。


薮内くんはしゃがみ込んで、握った拳で地を叩いた。

その姿を見て、いたたまれない思いでいっぱいになった。


悔しいやろ、泣きたいやろ。

頑張れ、頑張れ頑張れ!



「が、頑張れっ!」


思わず出てしまった声。

こちらを見た薮内くんは、やっぱり驚いていた。


「花風?」

「頑張れ!薮内くん!」


自分に負けたら、あかんねん。

挫折したって、立ち上がらな。

ウチが、ここにいるから!

(頑張れ!)

ウチの想いが通じたのか、薮内くんが次に蹴ったシュートは鮮やかな弧を描き、引き込まれるように右上のギリギリの場所へ。


(行け!入れっっ)


パスッ!


見事なシュートが決まった。
ウチは嬉しさの余り、飛び上がって手を叩いた。


「今の!今のすごかったわ!絶対誰も止められへんて!」


拍手するウチの掌を握ったのは、満面の笑みを浮かべる薮内くん。

それが、蔵が練習中にウチに見せたあの笑みと、とてもよく似ていた。



甘い熱に溶かされる
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