白兎を追いかけて | ナノ

誰かとの通話後、何か思いつめたようにして出て行った柚。

行かせてはいけない、と、心がいっていた。せやけど俺は、引き止めることが出来んかったんや。


『誰』と電話していた?

財前やあらへんよな?


「…なんでこないネガティブなんやろ……」


嫌になる。自分が。

俺はただ、柚を信じていればええんや。余計なことは考えんでええ。
……考えたらあかん。


ポケットの中にぐちゃりと丸められた一枚の写真。
朝靴箱に入っていたこの写真は、俺を動揺させるには充分すぎるものだった。


部室で、財前と柚がキス。

目を疑った。柚が俺以外とキスをするやなんて有り得へん。

最初は合成やないんかと考えた。せやけどこれが事実なら柚の様子がおかしいことも辻褄が合う。

違うんや、きっと。
これが事実なんやとしても、柚は無理矢理されたとか、何か事情があったに違いない。

…こうやって、いかに都合よく事を考えようとしても、揺るぎない事実が一つ。




なして俺に言ってくれんの?


「…………ッ」


きしり。

胸が、痛む。


なぁ柚。俺はいつまで、我慢すればええ?




一人机に座り、もの思いに老けっていると廊下側から声がした。


「白石ー、この子が用があるってさ」


クラスメートが茶化すでもなく声を上げると(きっと冷やかすのも飽きたんやろうなぁ)そこには僅かに見覚えのある女の子が立っていた。





空に拡散した恋情
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