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変な夢を見た。
真っ暗で何も聞こえない世界にたった一人ウチがいた。手探りで誰かいないか探すと遠くに小さな光を見つけた。
その小さな光はなんなのか、目を凝らしてみていると、何故か愛しい気持ちを抱いた。温かくて心が落ち着く。
ああ、あれは蔵なんだと、そう考えているとその光は白石蔵ノ介という人間に変わった。
いつもと変わらなく優しく微笑んでくれて、辺りが真っ暗なことなんてどうでもよく思えた。
「蔵…っ、」
早くその胸に飛びつきたくて走り出す。ウチの世界の中心はあなたなのだから、あなただけいればいい。
あなたの元へ行きたい気持ち一心に走る、走る。…けれど一向に距離は縮まらない。蔵は遠く遠く遠い。
どんなに走っても蔵には追いつけなくて、どんなに手を伸ばしても蔵には届かなくて、ウチはとうとう泣き出してしまった。
「柚」
蔵がウチを呼ぶ。
たったそれだけで嬉しくて、大好きな人に名前を呼ばれることは幸せなこと。顔を上げると蔵は切なげに微笑んでいた。
悲しいことが、あったんかな?さっきよりも、蔵が遠い気がする。
…そんなわけ、あらへん。やって、ウチと蔵はずっとずーっと一緒なんやから。
せやから…、
「柚、愛してた」
蔵は悲しくそう呟いて
そしてそのまま、消えた。
お願い躊躇しないで
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