「俺な、柚んことがずっとずっと…」
「piririririri!!」
見事に遮る着信。
(…は!?誰やねん!)
携帯の画面を見ると、表示されているのは“忍足謙也”の文字。
やってくれるやないか、謙也。
「出らんの?」
無視してもええねんけどな。
ムードぶち壊しやし、仕方ないわな。
「なんやねん、ヘタレ」
『うぉっ!むっちゃ機嫌悪いやないか!
なんかあったんか!?』
「あぁ、あったで。たった今な」
おまえやおまえ。
『大変やなー。あ、あんな!さっきオサムちゃんから電話あったんやけどな、部員が怯えてしゃあないからって紅い着物の幽霊のネタバラシしたらしいで!』
「へー、…で?」
『紅い着物の幽霊な、柚っちゅー話やて!』
「へー、ほんまか。そらビックリやなぁ」
『…むっちゃ棒読みやんけ。驚いてへんやろ』
「謙也はもう帰ったんか?」
『まだ森ん中やで。今帰りよるんやけど、柚が木の間からこっち見てるっちゅー話。もうネタバラシあったんやでーて伝えてやるべきやろうか』
は?柚がおるて?
なに言うてん、柚ならここに………、
「どうしたん?蔵?」
…おるんやけど。
「…そこにおる柚、どんな感じなん?」
『俺らが最初見たときと一緒やで。紅い着物でー真っ黒な長い髪でー…。あーでも、足が…ん?ない?』
…足が、ない?
ヤ バ イ !
「謙也、ええか、落ち着くんや。落ち着いて、おまえの全速力でそこから逃げろ。そこにおる柚は置いてけ。ええか?部長命令や」
『お?おん。浪速のスピードスターやからな、ここからやと五分ちょいで帰れるで』
「ヘタレスターでもなんでもええから走れ」
『なに焦ってるん?あ、柚がこっちに歩いて来てるわ。ん?あ、え?ぎゃ――――――!』
ブチッ、ツーツーツー。
「………。」
「謙也がなにかあったん?」
「柚、謙也はな…星になったんやで」
ご冥福をお祈りするで、謙也。
おまえんことは俺らが忘れんからな。
そんな、ドタバタで過ぎていった、合宿最終日であった。
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