白兎を追いかけて | ナノ

外されたカツラ。


「っ、あ」


“もしかして”が“やっぱり”に変わる瞬間だった。

目はくりくりとしていて、鼻も口も小さめで、俺と同じ色素の薄い髪色がふわりと揺れた。


「なにしてんねん、柚」


紅い着物の幽霊?

幽霊なんかやないわ。


「えっと……えへ?」

俺の大好きな子やねん。


紅い着物を身に纏って、へらりと笑って見せる柚は、ほんまに可愛かった。



「えへ?ちゃうわ。なんでそないな格好してんのか聞いてんのや」


逃げられへんようにと柚の手首をきゅっと握る。


(観念しぃや)


「やってー…、金ちゃんが肝試しするて騒ぎよって、部屋に綺麗な紅い着物を見つけたもんやから、幽霊になって脅かしたろかなってオサムちゃんとー……」

「…グルやったんか」


「なんでウチて分かったん?みんなギャーギャー叫んで逃げて行ったんに」

「分かるに決まってんやろ」


なんったって、柚やで?


「着物、誰に着付けてもらったん?」

「ん?オサムちゃんやで」


(…………。)


あの変態顧問め!


「へー、そうなんか」


…怒ったらあかん。

踏ん張れ、頑張れ、…俺。

帰ってオサムちゃんを投げ飛ばしてやればええことや。


…それにしても、

「綺麗、やな」

「やろやろっ!ウチも見た瞬間ごっつ驚いたんやけどな、この着物ほんま綺麗やろ〜」


いや、着物ちゃうし。
ほんま鈍感なんやから。

やっぱり柚はこれや。

そういうところも、可愛くてしゃーないんやけどな。


「着物を着ている柚が綺麗て言うてんやけど」

「え?……へ?」


ポカーンと口を広げて、信じられないと言いたげだ。
綺麗て言うてんやから、間抜け面はせんといてくれんか。


それでもやっぱり、綺麗なんやけど。
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