白兎を追いかけて | ナノ


言葉を言いかけて立ち止まった俺を不審に思った謙也が振り返る。


「なんやねん白石。もしかして幽霊にビビってるん?うーわっ、そらバイブルにも傷がついてしもたな〜!しゃーないで!みんな怖いモンがあるっちゅー、」

「謙也、前」

「…ん?なんや?」

「前、見てみぃ」


祠の隣の木々の間にいるのは、真っ黒な髪を垂らした紅い着物の女性。


「…………。」

「…………。」


あれは、きっと、多分…。


「幽霊やな」

「うおおおおおおぉぉぉぉ!!!」


驚異的な速さで逃げていく浪速のスピードスター。

今の速さ、確実に全国トップクラスやで。

(…このヘタレめ)


謙也の背中も見えんようになって、ここにおるのは、俺と幽霊だけ。


二人きり……やな。


「…………。」


とりあえず、襲いかかってくる気配はせんし…大丈夫……やんな?

リボンを取って、幽霊と距離を取る。


視界は、紅。
ほんまに…幽霊、おったんやな。
っちゅーか、なんか…怖ないんやけど。

幽霊てもっと怖いもんやと思ってたんやけどなぁ。

千歳が可愛い幽霊て言いよった意味が分かるわ。


やって、身長もちっこいし、青いっちゅーより普通に白いし。不気味な真っ黒の髪から覗く鼻も口も可愛いし…――。


(…ん?)


なんや、なんや?

何なんやろ、この違和感。


「!」


ピンと来た五感。

頭の中で“もしかして”が何度も何度もエコーされる。


一歩、幽霊へ踏み出す。

ビクリと後ずさる紅い幽霊。


疑問が確信へ。
土を蹴って、幽霊へとゆっくりと近付く。


「……っ」

紅い着物を揺らしながら、近くの木に隠れる“彼女”。


オーラで分かんねん。
雰囲気がキミやて言うてるんやから、絶対や。

逃げても無駄やで。

やって俺は、いつもキミを追いかけて来たんやからな。


(……なぁ?)


俺は俯く幽霊もどきの、ワカメのように長い髪を掴み取った。
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