白兎を追いかけて | ナノ

―不気味なほどに美しい月が、照らし出す。

ヒタリヒタリヒタリ。

足音が響くほど、静かな夜である。

神経は過敏になる。
緊張して当たり前だ。


バサバサバサッ!

烏が木々から飛び立てば、その者は叫ぶ。


「うぉぉぉっ!」

「…なにビビってんねん」

浪速のヘタレスター、忍足謙也だ。


「ビビってないで、驚いただけや」

「…意味一緒やて」



さっきすれ違った金太郎と千歳ペア。


金太郎は「幽霊ほんま出てしもたー!わいもうトイレ行けへん!」て半泣きしよるし。

お世話役の千歳も「幽霊ば初めて見たばい!可愛か幽霊やったばい」…なんて言いよるし。

ほんまのほんまにおるみたいやな。
さすがの俺も怖なって来たで。

隣でガッチガチに震えている謙也の気持ちも…分からんことはないな。


「なぁ白石、引き返さん?」

「ここまで来てなに行ってんねん」

「や、やって、ほんまに出るっちゅー話やで」

「まぁ―…、そうみたいやな」

「今からでも遅ないで!
引き返そうや」

「祠にあるリボン持って帰って来ぃひんかったのバレたら、部長である俺の面子は丸つぶれやろ」


毒舌財前に一週間は馬鹿にされる羽目になるねんで。

イマイチ納得していない謙也に、俺はとっておきの一言をかけてあげた。

「ヘタレの上塗り、したいん?」

「よっしゃ行くでー!」


単純アホとはこのことやな。

俺は溜め息に似た笑みをして、柔らかい土を歩んで行く。
前を堂々と歩く謙也の肩が震えているのは強がっている証拠やろう。

性格上、しゃあない。


(触れんどってやっとこ)


祠ももうすぐ近く。

もしかしたら幽霊さんも疲れて出てきぃへんのちゃう?なんて、数十分前の謙也を宥める言葉を自分に言い聞かせていた。

そんな、浅はかな期待。

祠までもう数メートル。


もう、少し。

ほんまかっこ悪いけど、早よリボン取ってスピードスターかのような速さでみんなんとこ戻らな。

…こういうのをヘタレとか激ダサとか言うんやろな。
せやけど、四天宝寺のバイブルも幽霊には勝てへんし。

そういや、柚にも勝てへんなぁ。

柚の天然に振り回されてばっかりやし、柚の言葉に一喜一憂しとる俺がおるし。

まぁきっと、この先も適わんのやと思うけどな。
柚のことを考えると、気持ちがふわりと軽くなる。


(んんーっ、エクスタシー)


早よ帰って柚を抱き締めたいわ。
そしたら柚は照れたように、困ったように、笑うんやろうな。


「謙也、早よリボン取って帰……―――!」


前方を見た途端、視界に映るのは、有り得ない光景。


(………え、は?)


思考回路が停止した。
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