―…その日も、不気味な夜だった。
月がまん丸としていて、闇夜を不気味に照らし出していた。
ある男は怖がりながらも森に入った。
なぜなら毎月夜に一度、森の奥にある祠(ほこら)にお参りに行かなければならないらしい。
彼は祠へ向かう最中、木と木の間に紅い何かが見えた。
なんだろうと不思議に思い、近寄ってみるが何もない。
気のせいだろうと先に進み、やっと祠の近くまで来れた。
彼はふと、視線を感じた。
回りを見渡すとそこには、木の陰から自分を見つめる紅い着物を着た女性がいたのだ。
じぃっ…と、こちらを見つめる髪の長い女性は手を伸ばして…追いかけて来た。
彼は逃げた。必死に逃げた。
そして祠に着いて、必死にお参りをした。
私がなにか悪いことをしましたでしょうか。お願いです。あの紅い着物の女性から、私を守って下さい。
土地神様、お願いします。
彼は必死にお参りをした。
「…するとその女性は消えていたらしい」
部屋に灯るろうそくの日が、オサムちゃんをぼぅと不気味に照らした。
「「ぎゃ―――!」」
一斉に叫び声が上がり、真っ暗な部屋に次々と電気が灯された。
「なんやねんなんやねん!むっちゃ怖いわ!わい眠れん!」
「オサムちゃんの恐い話、聞きたいて言うたの金太郎やろう」
「せやけどしーらーいーしー!」
合宿最終日の夜、広間には部員が集まって、オサムちゃんの怖い話とやらを聞いていた。
「肝試しやろうて言い出したんも金ちゃんやろ。もう準備して来たんやから、やるで」
夕食時、肝試しをしようと言い出したのは紛れもなく金太郎。
肝試しの前に、ということで顧問のオサムちゃんが怖い話を一つ、聞かせてくれたのだ。
…そしてこのザマだ。
「わい、紅い着物の幽霊に殺されてしまうー!」
オサムちゃんはゲラゲラ笑いながら泣き喚く金太郎に追い討ちをかける。
「せや、今ん話はここに残るほんまにあったことやからな。肝試しのルールは今ん話にも出て来た祠に行くこと。そして祠に置いてあるリボンを取って帰って来ることや」
二人一組やからな〜なんて暢気に笑い飛ばすオサムちゃんに金太郎はさらに喚いていた。
闇夜の紅いお姫様
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