財前の胸に秘めた想いはよく分からないが、平和なのが一番。
(だから今は、これでええ)
忍足は確かに、そう感じた。
……しかし。
「せやから入らんっていいよるやろ!」
「駄目や、強制やねん」
「入らん!」
「入らなあかん」
平和とは少し言い難い、どこからともなく聞こえる口喧嘩。
「なにしてんねんあいつら」
「仲直りしたと思ったら痴話喧嘩おっぱじめてますやん」
「恥ずかしゅして入れるわけないやろ!」
「一昨日は自分から隣に来たやない」
「そんときは蔵が悩んでる思うててん、体が勝手に…!」
「今俺むっちゃ悩んどるんねん」
「嘘つくなや!っちゅーか“ソコ”で悩み聞かんでもええやろ!」
「“ソコ”ってどこやねん」
「け、謙也っっ…!なぁ謙也、助けてや!ウチ蔵に食われてしまうー」
「せやから“ソコ”ってどこやねんっちゅー話」
「そ、そんなん言えるわけないやろ!あああアホっ!」
歯切れが悪く、少々頬が赤い。
様子がおかしい柚に目を光らせたのは天才少年、財前。
「…怪しい」
「え?は!ちょ!なんがやねん!」
「なにって、」
「そや、こん前ウチんこと太陽言いよったやん〜。光り輝く存在なくすで、助けてや〜!」
「あぁ、それ太陽みたいな破壊力があるっちゅーことですわ」
「は!なんやねんそれ!ウチむっちゃ感動しとったんにー!」
いや、嘘ですけど。
舌をぺろっと出して意地悪そうな表情をする財前を柚は知らない。
「っちゅーわけや、柚。堪忍しぃ」
「このエクスタ変態男!」
「なんや?誉めてるん?」
「ちゃうわ!」
柚は白石にべぇー!と舌を出して見せて半泣き状態でマネージャーの仕事に戻って行った。
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