「あないな紙なくても、俺のところに来れば柚んためならいくらでも伝えるし、何度だって書くわ」
「やって…蔵にこれ以上嫌われたくなくて…、」
「嫌うわけないやろ!」
大きな声が、響く。
雨にかき消されないほど、大きい声が。
「嘘やん。やって、昨日から…蔵、冷たくて、ウチとは関わりたくないみたいで、」
温泉のときやって、出て行けっていったやん。朝のミーティングもしてくれんやった。
「ちゃうねん、柚。聞いて…欲しいんや」
「う…ん?」
「俺な、柚が嫌いなわけない。むしろ大好きや」
……っ、あかん。
また、期待してしまう。
「怒ってたんも、自分にや。どうしても柚に対して独占欲がわいてしまってな」
独…占欲?
「柚が俺だけの女の子になったらええって思って、せやけど現実は違うて、苛立ってたわ」
ウチはひたすら頷いた。
蔵が、ウチを嫌っていないというたった一つの事実が、嬉しくて、また泣きそうになった。
ウチは多分、泣き虫なんやと思う。
やけど蔵が好きっちゅー想いが強すぎて、蔵のために泣いたらあかんから、涙を堪えきるんやと思う。
安心して、力が抜けた。
「なぁ、柚。今回のことでよく分かったわ。柚が大好きや。さっき言った独占欲っちゅーのもこれから先収まる気はせんのや」
キミといると、胸に積もるのは綺麗な想いと汚い気持ち。
だけどどちらも必要なんやって信じたい。
「柚が大好きやねん。俺だけの女の子になって欲しい」
甘い甘い想いは止まらない。
ノンストップに加速する。
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