雨が、冷たい。
ウチはなにをしてるんかな。
(早よ帰らんと、みんなの晩ご飯作らなあかんのに)
あのとき、強い風が吹いて、ウチは必死でプリントを掴んだ、…せやのに。
手が握っていたのはただの真っ白な紙。
ウチは甚だしくも勘違いをしていたよう。
落っこちたおかげで枝が引っ掻いて出来た傷は痛いし、ここどこか分からんし。
動けば動くほど分からん。
「っくしゅん!」
不運にも雨。
(寒い……。)
ウチは痛みを感じながらしゃがみこんだ。
携帯も圏外。
これって絶体絶命ちゃうんか?
「はぁ…、」
ほんま溜め息しか出らんわ。
蔵にもらったプリントも無くして、夜ご飯も作らんで、迷惑の極みやないの。
嫌われて当然やな。
蔵は誰にでも優しくて、意味もなく怒る筈がない。
せやから今回の件もウチが悪いんや。
「自分、あれやろ?噂の“スーパー少女”」
みんなウチのことをスーパー少女としか知らんのに、そういう外面的なことしか見とらんのに
「花風柚なら見てないですよ?」
蔵は最初からウチを花風柚として見てくれとった。
「俺は丸焦げでも得体の知れんモンでも柚が作ったんなら、食べたいんやから」
優しすぎて、変に期待させる。
それは蔵の悪いところ。
「俺んこと嫌っとらんて分からせてくれんと許さへん」
抱き締めてくれたあの温もりは、ここにはない。
雨に濡れるこの体は、温もりを忘れてしまったようだ。
「柚…っ!」
声は、忘れとらんみたいやな。
蔵の声はいつだって特別に響いてて…―、
「やっと見つけたわ!柚!」
(……え?)
強く優しく抱き締められる感覚。
確かに、彼の温もりを感じた。
飴色の月が哭いている
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