白兎を追いかけて | ナノ

―ザーー!



雨の音が強く響く。

どうやら激しくなってきたようだ。


「ほんま腹減ったわー。柚〜、今日のご飯―…」


忍足が一番に広間に入った所で、殺風景な部屋に疑問を抱く。
昨日だったら食事はもう用意されていた。

しかし今日は、ぼけーっと顧問が座っているだけ。



「あれ?オサムちゃん。柚は?ご飯は?」

「買い出しから戻って来て、それからどこか行ったわ」

「?…どこいったん?」


「落とし物拾うて来るいいよったから、山ん中やない?もう三時間くらい経ったけどな」


渡邊が向ける視線も言葉も、白石と財前に向けられているようだった。


「!!!」

血相を変え、すぐに走り出す白石。

しかし財前が白石の腕を掴み、それを止めた。


「なにすんねん!離し!」

「今の白石部長やったら柚先輩を探しても見つかりませんわ。俺が行きます」

「あかん。これだけは譲れんのや」

「見つからんくて、俺らが迷子になったらどうするんです。シャレになりませんわ」

「せやから俺が行くんや。絶対見つけるわ。俺が今までどれだけ、柚を追いかけてきたと思ってん!」


振り払われる腕。

財前は白石が走り去る後ろ姿をひたすらに眺めていた。


「なんですか、今回は絶対俺の方がかっこいいて思うてたのに」


柚先輩が求めている手は白石部長やって知っている。

白石部長やないとあかんことも知っている。


「白石部長には…適いませんわ」


ボソリと呟いた言葉は儚く消えた。


笑顔の似合うキミは、大切な大切な先輩。


(絶対に幸せになって欲しいんです。)
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