白兎を追いかけて | ナノ

―その頃、合宿所では…。



「白石部長、ちょいと…ええですか?」

「財前?」


雨がパラパラと降り出して、丁度練習も終わる時刻なので片付けを済ませて撤退していた。


「さっき、俺に言いましたよね。今ここでしか出来んことをせなあかん、って」

「ああ、言ったわ」


「白石部長にもそんまま返しますわ。この合宿所で柚先輩を悲しませることが、白石部長がここでしか出来んことですか?」

「……。」

「柚先輩、どないに悲しんどるか分かっとります?白石部長に冷たくされて、理由も分からんくて、彼女が自分を責めとること、分かっとります?」


「…分かっとるわ」

「何言うとるんです、分かっていませんわ。分かっていたら白石部長はこないなことしません」

「分かっとるわ!」


大声を出した瞬間、部員全員が何事かと振り向く。

「白石部長!」
「え?し、白石?」


後輩も同学年も、皆が驚く。

何事も冷静沈着な白石が、財前に掴みかかっていたのだから。


「俺かて分からんのや。柚が好きなんは当たり前や。前はそれだけでええと思いよった。…せやけど、最近おかしいんねん。柚を手に入れたいと強く思うてしもて、気持ちがコントロールできへん」


「なんですかソレ、それなら早よ柚先輩に謝って、元通りになって下さい。早よ柚先輩に笑顔、戻してやって下さい」


白石部長にしか、出来んのですから…と財前が続けて、白石は溜め息をついた。


「なんでおまえはそないにかっこええねん」

「はい?男に褒められても虫酸が走るだけですわ気持ち悪い」

「…ほんま口悪い後輩やな。さっきは当たってしもて堪忍な、俺が悪かったわ」
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