白兎を追いかけて | ナノ

笑いも一気に冷めた。

覚める、当たり前や。


こっちに近付いて来ているのは、ウチにとっても部にとっても、絶対的なオーラを放つ彼なんやから。


「財前、試合がまだからやって気ぃ抜きすぎや」

「白石部長、」


「喋るんは帰ってからでも出来るやろ」

「…すんません」



なんか、今日の蔵…恐い。

いつもやったら、喋るなアホ!ぐらいで済むはずやのに。
合宿やから、やろうか?


「今ここでしか出来んことをせなあかんやろう」

「はい」

いつもとオーラが違う。…キツいわ。


「柚もや」

「…すみません」

確かに無駄なことは嫌いな蔵やけど


「分かったならええわ」

「ごめんなさい」

こないに冷たい瞳はしない。

ごめんな、蔵。


手の掛かるマネージャーて思われたかな?ほんま使えん奴やって、邪魔やって思うてないかな?

嫌わんで、蔵。


「そういえば、柚」

「ぅぁっ、はい!」


仄かに膨らむ期待。


なんやろう、用があるんやろうか?
なんか聞きたいことでもあるんやろうか?


「今日の練習メニューから、みんなが苦手やと思う部分とそれを応用した練習を徹底的に明日の練習メニューに組み立ててみたんやけど。明日はそれで頼むわ」


渡された、蔵の手書きの練習メニュー表。

それは、つまり、明日も練習メニューについての話し合いはウチとはせんっちゅー…こと、…か。


ほんの一瞬、呆気にとられる。


(虚しいな、ほんま…)


胸にぽっかりと、穴があいたようだった。


「お、おおきに!さすが…蔵、やな。ちゃんと目ぇ通しとくわ」

ウチ、いらんのやろうか?


「ほな、ウチ買い出しいかなあかんねん」

無理やり笑って見せたウチの表情は、なんと滑稽やったやろうか。

泣きそうなのをこらえて、かさかさに渇いた唇を噛んで、目を細めて口角を上げた。


光くんと蔵、二人の表情が引きつった気もするけど、そんなこと心に留める余裕はなかった。

蔵に渡された一枚の紙を握り締めて、ウチは走り出した。
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