白兎を追いかけて | ナノ



「ウチは…ただ、」


蔵が心配で、心配で。なんとかならんのやろうかって思って、いつも一人でなんとかしてしまう蔵やけど、力になりたくて、…ただそれだけで。

余計、やったんかな。


「………。出て行って、もらえんか」


俯いた蔵の顔は見えない。


「…ごめん」


震える声は、夜風に流された。



哀しい


哀しい、哀しい


痛い、痛い


心が痛い



ウチは、蔵のなんなんやろう。迷惑しか、かけんで。

一年生の冬。
蔵と出会ったおかげで、世界は変わった。

蔵が世界を変えてくれた。

それなのに…、ウチは。




――…


「なんしよんねん、俺は」


バシャン!と。拳に力を入れて、自分の太ももを殴りつけた。

飛び散った水しぶきはすぐに消えた。


柚のことになると、苛立ちが収まらん。もちろん苛立ちの矛先は俺自身。


こんなん俺やない。無駄、多すぎや。

柚は明るくて、優しいから、せやから人も自然と集まる。


柚がテニス部に入って、俺に懐いて、ほんまに嬉しかった。

やけど、柚は俺だけの女の子やなくて、謙也や財前の影がチラつく。

あの滝んときだってそうやった。


俺が、助けたかった。

柚がみんなの女の子やいうことに不快を感じる。


(俺は一体なにがしたいん?)


自分に問いても確実なようで曖昧な答えしか出て来なくて、空を見上げた。


柚を手に入れたいこの気持ちを、どうしたらええん?

やけど、柚の気持ちは……。





普段の街中ではあまり輝かない星たちが、これでもかというほど輝きを主張している。


瞬く星たちが、嘲笑っているかのように感じた。
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