白兎を追いかけて | ナノ


「!」


そうやん、蔵…悩んどるんやん――。

いつも蔵はウチの味方でいてくれて、困ったときは必ず助けてくれる。

ウチだって…、蔵の役に立ちたい。
気付いたときには、先ほどとは逆の方向に足が進んでいた。


――チャプン、


水の抵抗なんかお構いなしに蔵がおるところまで進む。

「?…柚?」


蔵はすぐ目の前にいて、恥ずかしいけれども引き返せない。引き返したくない。


蔵の隣に腰を下ろせば、ウチのほうが蔵より目線が低くなる。


「どないしたん?中の風呂に入るんちゃうん?」

「蔵と、話したくて」

「……なんかあったん?」


ちゃうわ、アホ。なんですぐウチの心配するん。


蔵は優しすぎる、ほんま優しすぎる。それはウチだけにっちゅーわけじゃないけど。

「なんかあったんは蔵やろ。なに悩んでるん?」

「…悩み?そんなん、あらへんで」

「ウソ!絶対悩んどる!」


ウチから視線を逸らす蔵。
ほら、いつもやったらそないなことせえへんのに…。


「蔵、元気ないやん。せやからなんか力になれんかて思って」

「柚には言えへんことや」

「っっっ」


ウチには、言えへんって。


そん、な………。


蔵の特別な存在やなくても、近くにおるては思っとった。

そこらへんの蔵ノ介ファンなんかより、絶対絶対絶対!蔵を理解しとるつもりやった。
蔵にも…、頼りにされとるって思っとったんに……。


言葉を失ったウチに、蔵は追い討ちをかける。


「柚は、そんな格好で男の隣に来てええと思ってるん?」

「……え?」


蔵…?


「謙也や財前の前でもそないなことするんやろ」

「違っ…!」


蔵の瞳が、冷たい。
蔵はいつも、優しくて、アホみたいに優しくて…それで、


「考え、軽いで」


「!」


怒りというよりも、哀しみが込み上げた。
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