「ほんの数秒滝修行したからって、ヘタレ卒業したと思ってるんすか、謙也さん」
「そそ卒業の前にヘタレやないわ!なぁ、柚」
「いやヘタレやろ」
即答してやると謙也は水の上にぷか〜と浮いていた。
そないにショックなんか、アホ。
「でも今回はかっこよかったで。謙也もやれば出来るやん」
「っっっ!ほんま!?」
「助かったわ。ジャージおおきに」
謙也のジャージを濡らしたらあかんなと思い水場から上がる。
途端、ガシリと掴まれた両手。
「今、むっちゃ柚が可愛く見えたんやけど…!」
「…っえ?は?」
何故か謙也の瞳はキラキラしていた。
謙也がウチのことを可愛いとか言うんは初めてで、ほんま驚いた。
…っちゅーか、調子狂うわ。
(謙也、ええ奴やないの。)
ニッコリと微笑んだそのとき―…。
「ほんま心配してたんやで!」
(…は?)
「柚ってほんまは獣やないんか野生動物やないんかって心底疑ってたんやけどれっきとした女やないの!よかったわぁほんま、なぁ柚!ぐはっ!」
やっぱりコイツはアホやった。
一言二言無駄に喋るわほんま。
せやからウチは頭を冷やさしてやろうと渾身の蹴りをかましてやった。
またもやぷか〜っと浮かんでいる未ヘタレ卒業者。部員が哀れむように手を合わせていた。
(池の藻屑になれ、ドアホ。)
ぐるりと見回すと、池の端っこで、蔵が自分のジャージを持っていた。
なんか…表情が歪んでへんか?
(気のせい…やろうか?)
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