白兎を追いかけて | ナノ


やっぱり、蔵は優しいから。せやからこんなウチでも、放っておけんのやろ。


(優しすぎるわ…アホ)


「柚さっきはほんま…」
「こっち来んといて」


「…柚?」


「嘘付きな蔵なんか…嫌いや、大嫌いや…。蔵なんか、嫌いや」


嘘や。嘘付きはウチやん。
嘘付かれても、大好きに…決まっとるのに。


「柚……」

「来ん…といて」


泣くな、泣くな。泣かんって決めたんやから。

蔵は、あの子とどんなメールしてるん?
毎日しよるん?


ウチの知らない世界が、二人の間にはあるんやもんな。
蔵の彼女でもないのに、こないに嫉妬して…見苦しいにも程がある。


一歩、一歩、彼は容赦なく近付いてくる。
表情が悲しげなのは、ウチの気のせいかもしれへん。


「今日、柚のお菓子を食べることだけが楽しみやったんや」

「……。」


「くれるて、約束したやん」

「あの子とも…約束してたんやろ?」


「ちゃうねん!あれは……!」


言いかけたところで、蔵はごみ箱の中のモンに気付いたようだった。

蔵はすぐにソレを拾いあげる。



「柚、これ…」

「今日作ったヤツな、焦がしてしまってん。せやから…ええんや。焦がしたヤツなんか蔵に食べてもらう権利はないんねん」


自分で言って、悲しい。


「なに…言うてん」


哀しい目をした蔵。

ドアに追い詰められて、逃げられないようにと両手を掴まれた。
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